プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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凄腕ハスラーの名前を思い出せない。
あと2日で2013年も終わるという日の深夜、のんべえ横丁の〈ピアノ〉バーにいる。店のともちゃんに最新作の写真をiPadで見せている。
甥の邦彦にもメールで送ったら、感想が「すげーかっこいいです。グラフィックと絵と写真の間を揺らいでる感じやばいですね。東京タワーのドクロみたいです。こんな服の柄があったらいいですね」とかえってきたので、
「これは、自宅のダイアモンド・カットの窓越しに、外の、鳶が組み上げた足場を写真に撮ったものです。マルセル・デュシャンですね」
「デュシャン超えてますね。やばいす。デカダントで未来的です」
「レディメイドなんだけど、ダイアモンド・カットと鳶のふたつの匠がミシン台の上のこうもり傘となんとかの出会いみたいな偶然のコラボがホントにやばい」
「全く異なるレイヤーが重なってビッグバンがおきてますね。やばいす」
年末にこんな「やばいす」メールしてる伯父と甥も珍しい。邦彦は来年2月から10月まで『情熱大陸』の取材を受けるようだ。
ともちゃんは南米ペルーのチチカカ湖まで旅したことのある筋金入りのトラベラーで、いつもかなり知的な会話を楽しませてくれる。いい具合にとんでる。
彼女にiPadでその最新作を見せると、「空撮みたいですね」と感想。
そんなことに興じているとドアが開き手に抱えきれないほどの荷物を持った男女が入ってきた。男は40歳ほど。女性は20代半ばかな。
〈ピアノ〉はもともと狭い呑んべい横丁の店にピアノを入れて、さらに狭くし、4、5人でいっぱいになってしまう。客はぼくひとりだったが、そこにふたり加わり膝が触れるほど狭くるしくなり自然話すことになる。
仕事はふたりとも整体師と知る。有名人のパーソナルトレーナーもつとめる。男性は小林さんといい、彼から、
「失礼ですが、何をおやりになっているんですか? 」と聞かれ、
「本を書いてるんですけどね。あの、原宿のクリームソーダのとか」
「えっ、じゃあ、『原宿ゴールドラッシュ』の森永博志さん?」
「そうです」
彼は横浜出身。いまも横浜に暮らしているというので本牧の話になり、彼が「レノン」といっている男は、ぼくの言う「八木さん」だったり、同じ世界に触れているのを知った。
話が弾み、「すごいハスラー、いたよね?」と訊くと、小林さんも「いましたね。〈アロハ・カフェ〉やってた。なんていう名前でしたかね」と心当たりはあるものの、お互い名前がでてこない。
翌日、急に思い出し小林さんに「植竹でした」とメールしたら、「森永さん 昨晩は一見にも関わらずご歓談下さりありがとうございました。横浜、本牧あたりにいらっしゃる時は是非お声をかけて下さい。原宿ゴールドラッシュ 僕にとっても忘れられない青春の一冊です。ではまたお会いできるのを楽しみにしています」と丁寧な返事がかえってきた。
そう、ハスラーは植竹だった!
奴とはじめて会ったのは『ブルータス』で横浜特集を組んだときだった。「横浜不良一番煎じ」というコンセプトで、チー坊、加部正義、イクラ、シンキ、八木さんら伝説の不良たちを取材してるうちに、一度も勝負に負けたことのない「凄いハスラーがいる」と誰かから聞き、その人物に会ったら植竹だった。本牧の顔役で何軒か店を持ち丘の上の大邸宅に住んでいた。
この特集を制作してるときは毎晩本牧に出かけて行き不良たちと夜を過ごした。 伝説のギタリストの陳信輝は、そのときはもうギターをやめていたが、「ギター、弾け」と煽っていたら、ほんとにチー坊たちのバンドでギターを弾くようになり、渋谷〈クアトロ〉のステージに立った。
本牧埠頭の〈バス・バー〉で連れのオンナにちょっかい出す客と喧嘩になった。いつもヴァンプなオンナがまわりにいたり横浜特集はホットな仕事だった。
そのころ布袋寅泰がアルバム制作に当たり「ワイルド」をテーマにした曲をつくりたいので誰か会わせてほしいと言うので、真夜中、横浜に高速を飛ばし本牧にあった植竹のアジトを訪ねた。
その翌日、布袋は曲をつくっていた。
『ギタリズム・ワイルド』にその曲は収録された。
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