プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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ひさしぶりにPINKDRAGONに山崎さんを訪ねた。
長い間小指に当てていた鉄板を病院でやっと外してもらったあとだった。
病院は駒沢にあり、PINKDRAGONは渋谷キャットストリートにある。地下鉄で駒沢から渋谷に来た。
もう病院に行かなくてすむと思うと、気持が軽くなった。
山崎さんは愛犬のKUROを散歩につれだすところだったらしく、3Fのデザイン・ルームにワンちゃんといっしょにいた。
山崎さんの秘書のような西尾君が来て、KUROを外に連れて行った。
PINKDRAGONの日常は、絶対的なまでに不変の様相をくりかえす。
KUROは人と同じ次元か、それ以上の存在にPINKDRAGONではなっていて、まるでチンプな言い方だが、その現実は犬と人間が共演する映画のようだ。
小指の話をする。
「けっこう大変でしょ」と山崎さんは、心配してくれる。今日医者に直ったと言われたが、神経に痛みを感じる。自転車で走行中にハンドルをきりまちがえ、つき指してしまったのだ。
「意外と小指って大事なんだ」
と山崎さんは、なぜヤクザが“小指をつめる”のか話してくれる。実際に山崎さんは見たそうだが、小指をつめたヤクザはやがて衰弱し、破滅していったという。
「生命断つ、みたいな感じですか?」
「そうだったね。体のバランス感覚もおかしくなるらしい。あと精神にも支障きたすみたいね」
「そうですか。指に鉄板あててるとき、何か気分が沈んでて、自分でもおかしいなって感じたんです」
と小指話にはじまって、
「『アイデア』という雑誌が50Sのこと聞きにきてね」
「それ、赤田クンだ?」
「そう。いろんな人が話してたけど、ぼくの話だけカルーイんだ。その雑誌に森永さんの作った『TWIST&SHOUT』が1頁ででてたよ」
という話になり、『アイデア』の最新号に、70年代につくったZINEが紹介されていると知った。
数日後に、その『アイデア』が発行元の出版社から送られてきてビックリした。取材もうけてないのに。多分、赤田君の手配だろう。
『アイデア』は“世界のデザイン誌”と称し、毎号、ひとりデザイナーの大特集を組んでいる。
送られてきた号は、浅葉克己特集だった。
60年代からずっと広告業界の第一線でスター・デザイナーとして活躍してきた浅葉氏のこれまでの仕事が集大成されている。
資生堂、キューピーマヨネーズ、西武、サントリー、TDK、日清食品、…と王道をゆく華々しさが頁をめくっていると伝わってくる。
まだ日本の消費社会が好調で、広告文化が世の中の中心に位置し、大きな影響力を持っていた時代の産物だ。
雑誌の3分の2を、浅葉克己特集が占めている。
どんどん頁をめくっていくと、遂に辿りついた。まるで初めて街で店を探していたかのようだ。
タイトル頁に、どうやら連載ページらしく“20世紀エディトリアル・オデッセイ第7回”とあり、今回のテーマは「Back to the 50s」だった。
さっそくワクワクして頁をめくると、構成者の赤田祐一とばるぼらさんの対談。
50sを物語る本、雑誌が紹介されている。例えば下着メーカーのカタログ、『アメリカン・グラフィティー』の特集をくんだ1974年刊の『宝島』、真鍋立彦、中山泰、奥村靫正たちの作品集『WORKSHOP MU!!』…の中に、
B(ばるぼら)最近でフィフティーズっぽい印刷物って見ましたか。
A(赤田)日光江戸村の宣伝用の媒体をMU!!の中山泰さんがデザインをしてるんですけど、50年代アメリカ風のロゴやイラストを江戸村の写真にコラージュして不思議な世界を作ってますね。
と、『原寸江戸魂』が、まず紹介されていた。
次に開くと、ドカーンといった迫力でクリームソーダのドクロ・マークが出現する!テキストは山崎さんのインタビューで、テーマは「ずーっとアマチュア」。
この見開き頁に、文庫版『原宿ゴールドラッシュ』のカバーが載っている。キャプションは「タイトルを変えながらこの文庫化で6回目の出版となった原宿ストリート・カルチャーの聖典。中山泰による表紙デザインを並木清次がリミックス」。
さらに頁をめくると、クリームソーダ関連の出版物が多数紹介されている中に、『ロックンロール・バイブルTEDDY BOY』が表紙だけでなく中の頁までも載っている。capに「リーゼント、ハーレーなどロックンロールに大切なあれこれを極めてビジュアルに紹介。1色と2色のページの使い分けたブックデザインが洒落ている。プロデュースはクリームソーダ、ディレクトは森永博志、デザインは渋谷則夫」
他に、この頁にはやはりぼくがつくったフリーペーパーの『STYLE NO1』も紹介されていた。
その後、水野良太郎、バロン吉元、金子國義のインタビュー、書籍カタログとつづき、最後に、山崎さんが教えてくれたように、幻のストリート・マガジン『TWIST&SHOUT』が2冊、中の頁まで紹介されていて、ぼくは30年ぶりに、自分のつくったZINEと再会することになった。
手元にはなかったのだ。
capに「どちらも20ページ程度の薄さだが、ロックンロールとパンクの共通性を既に見抜いていた編集方針と、詰め込まれたエネルギーの熱量はたまらない」。
と、まあ、ザッと『アイデア』を見てきて、おかしく感じたのは、大特集の浅葉克己氏のページが、ビカビカに輝けるコマーシャリズムなのに対し、クリームソーダを中心とした50s小特集は、徹底的にストリート系、アンダーグラウンド系で、その対比が余りにあからさまなので、ちょっと笑ってしまうと同時に、世の中はこのふたつの面をもって成立しているのが健全なんだな、という感想を持って、『アイデア』を閉じた。
でもこうやってかつて自分のつくったものが、標本箱に採集された虫みたいに並べられているのを見る気分もわるくはない。