プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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最近、ある写真展のオープニング・パーティで主催者から女性カメラマンを紹介された。
名前は花坊(KABO)という。
彼女はいま香港に住んでいて自分の写真展のために来日していた。
名前を聞き、すぐに以前彼女といっしょに仕事をしているのを思いだした。
10年程前、香港の映画監督/グラフィック・デザイナー/ヒップホッパーのエリック・コットが『DRAGONHEAT』というかなり実験色の強い映画を制作した。
その制作には主演に、〈クリームソーダ〉PINKDRAGON店の女性店員にしてTHE MEというアーティスト名でデビューしたマサミちゃんが抜テキされたこともあって、代表の山崎さんが全面的に制作協力した。
映画の舞台は東京・香港・北京。物語は主演もつとめたエリック・コットの"さまよえるホンコニーズ”とマサミちゃん演じる“さまよえるジャパニーズ・ガール”の逃避行といった内容だった。
映画と同時にサントラのCD、グッズ、それに写真集も制作することになり、写真集の監修と執筆を依頼された。
その写真集のカメラマンが花坊さんだったが、制作中もその後も本人とは一度も会わなかった。
仕事ではガッチリ組んでいるのに、会ってはいないという珍しいケースだった。
ADはイルドーザーという男性ふたりのチームだった。
写真集はイルドーザーの発案で、タテに細長い写真集としては異例の変型版だった。
ロードムービー感たっぷりに、花坊さんの写真がイルドーザーの技のきいたセンスでレイアウトされ、巻頭に小説仕立てのメイキング・ストーリーと巻末にエリック・コットのインタビューが掲載された。そのふたつのテキストの執筆を担当した。
映画のタイトルは『DRAGONHEAT/竜火』だったが、写真集のタイトルはそれをひねって、『DRAG ON HEAT/竜火は燃えつづける』(リトルモア刊)とした。このアイデアをエリックに伝えると、彼は「自分も同じイメージをもっていた」と気に入ってくれた。
ここでいう「竜火」とは、それまでにないものを創りだしたいという衝動といえる。映画制作にはその「竜火」が激しく燃えつづけ、その火は写真集にも見ることができる。
映画とはちがい写真集の初まりは天安門広場の日常の光景だ。まだ世界のトレンドとは無縁の中国人民の姿が花坊さんによって非現実的な夢の中のシーンのように撮られ、イルドーザーによって動きのある映像に仕立てあげられている。
そこには時間が流れている。
こういう見せ方もあったのかと構成にインパクトを感じた。
エリック・コットが語る創作の意義が写真集にもハッキリ打ちだされている。
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「あまりにも世のなかはシステムや制度がはびこりすぎてると思う。みんな眼の前に敷かれているレールの上にのって安易に事を運んでいる。でも、僕は誰でもができることや、他の人がやってもいいようなことをやろうとは思わない。誰もいままでやってこなかったことをやるのは楽しい。これは僕の個人的な性格なのかも知れないが…。
映画も娯楽作品じゃないと映画じゃないと思ってる人たちがいるけど、僕はそうとは思わない。むしろ、映画というのは、僕の態度なり、思惑なり、思想なりを伝えるものであってもいいのではないかと思う。
だから、映画館で観客が与えられたストーリーをみんな同じ気持ちで楽しむという娯楽とは違いひとりひとりがその人なりの刺激を脳にうけて、小説を読んでるときみたいに、想像をふくらませていく。むしろ、そっちのほうがパワフルな気がする」(写真集より)
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『DRAG ON HEAT』も、その態度をもって作られた。
写真集のエンディングは天安門広場にもどる。89年の天安門事件を想わせる群衆写真がでてきて、ラストの頁はブレまくった天安門の“幻像”だ。
何かを想像させずにはいられない見事な構成だった。
写真集はPINKDRAGON2Fのショップで今も入手できる。
このウェブもそうだけど、ぼくの中でもまだ竜火は燃えつづけている。
それが消えたら、死んだも同然だろう。