プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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韓さんの「チング」という気持をうけて、またすぐに、そこに行こうと思った。プライベートで行っても面白いとは思わない。プライベートは所詮プライベートで、東京における日常で充分だ。
「行きたい」と熱く想うと、チャンスはすぐやってきた。講談社が、社運を賭けるような意気込みで、戦前、一世を風靡した国民的雑誌『KING』を復刊するという。その仕事がまわってきた。「旅のページをつくってくれ」と依頼された。
もう、韓国の島しか頭にない。
ちょうどそのころ、新井浩文と出会った。
彼は役者だ。彼の主演作『ゲルマニウムの夜』が公開間近だった。
ゲルマニウムといえば、韓国の南端のビーチだ。編集部に、新井浩文がゲルマニウムのビーチを行く、という企画を提案した。
「面白いね」と、すぐに決まった。
新井クンに、その企画を伝えると、彼はいままで海外に行ったことがなく「行きます」とのってきた。
取材地にまた韓さんも来た。車を持ってきてくれ、取材につきあってくれた。
またチングの交流がはじまった。
新井クンは映画『チング』に感動していた。何か、ヒリヒリするシチュエーションにしたいと思った。
地元の若者たちを集め、戦闘的写真を撮った。仕事とはいえ、そこには国境を超えた人間的感情の交錯はある。それが面白い。
その土地の人間たちに触れなければ、その土地のことは何もわからない、そう想う自分がいた。
そしてまた紅島に渡った。港からチャーターした漁船に乗り探検に出た。奇怪な岩礁が浮かぶ海域をめぐっていった。船から新井クンが岩礁のひとつに飛び移った。
そこにひとり立つ新井浩文を、船上から見たとき、かつてその島に生きた或る闘士のイメージと重なった。
その闘士とは1960年代、当時の全大統領の親族が紅島にリゾートホテルを建設しようとやって来た。
リゾート施設を建設したら、島の貴重な自然環境は破壊されてしまう。それを阻止するために、ひとりの生物学者が島民を組織し反対運動を展開した。開発計画を中止に追いやった。
島を守った男の幻を、岩礁にひとり立つ新井浩文に見ていた。
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この旅行記は『KING』の創刊号を飾った。旅に同行し、新井浩文の友人だったカメラマン・江森康之より発売直後、電話が入った。
「森永さん、『KING』の批評が読売新聞にでて、ぼくらのしかよくないって出てました」
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新井クンとは今もたまに会う。
いっしょに旅をしたという実感は今も自分の体に残る。
そのときのトラベルローグを、転載する。
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青森に生まれ育って、子供の頃は海に潜ってサザエやウニ獲ってましたからね、旅で島や海に行こうなんて思わないですよ。実際一度も行ったことない。
今回、初めての海外旅行がその島になってしまったわけですけど、韓国が最初の旅先になった。ええ、確かに『チング』は好きだけど、それで韓国に行こうなんて思わなかった。
じゃあ、どこかすごく行きたいところがあったかというと、特にあったわけじゃなく、まぁ、今回は『ゲルマニウムの夜』に出演して、撮影終わった頃、韓国にゲルマニウムの海があるから行こうって誘われたんで、じゃあ、この旅にしてみようと。
で、木浦と紅島に行くって聞かされて、そこがどんなところかさっぱりわからない。普通はちょっと行く前に調べたりするんでしょうけど、何も調べなかったし、大体ソウルにも行ったことないのに、木浦なんて言われてもイメージも何もわからないですよ。
ソウルに着いて、列車で3時間南に下って、木浦に着いて、そこから船で3時間。遠いなー、南、南って聞かされてるだけで。どこ行くのってずっと思ってた。
(中略)何が起こるかわからない海外旅行なんて苦手なはずなのに、うちのまわりの友だちが海外しょっちゅう行ってんの観て、いいなぁと思うようになって。ただ、うちの性格からすると何の目的もなくぶらぶら旅するみたいなのはダメですね。やっぱり、旅にはハッキリ目的があったほうがいい。イタリア行ったらサッカー見るとか。
今回は帰りにソウルに一泊したときパラダイス・ウォーカーヒル・カジノに行ってバカラやるのがうちの目的だったんですけどね。木浦は食い物旨かったですね。タコが旨かったですね。いまだに、あのタコのビビンバ、食いたくなる。カニのケチュジャンのメシも、辛くて旨かった。やたらおいしかった。
それと、ここにも写真出てますけど、紅島の岩場に船からひとり飛び移って立ったとき。船が港を出たときから、興奮はしていて、青森にも千畳敷とかすごい自然はあってけっこう自然慣れしてるんですけど、あの島はちがった。
で、あの島の岩場に立ったとき、すごかったですね。今回の旅で一番印象に残ってる。あんなところにひとりで立って船は離れていくし、うち、ここで何やってんだろって、あのときはテンションあがって、ホントに解放されました。
何なんですかね、ああいうテンションは。別の岩場に上陸したときも、やっぱりそこもすごい岩場で、人なんて一度も上陸してないんじゃないかっていう。そこで、何か印を残しておこうって思って、立ちションしたんですよ。
うちは普段の基本がインドアなんですよ。アウトドアは好きじゃない。自宅でゲームやって過ごすか、街に出ても映画館とか飲み屋ですから、自然なんて興味ないのに、あの岩場に立ったときは、それまで体験したことのないハイ・テンションになって。
そこが今回の旅先だったんですかね。海外旅行というのとはだいぶニュアンスが違いますけど。
ソウルに戻ってからは、気分が盛りあがってきましたね。駅出て、タクシー拾えなくて、街うろついてたら、すごいやばい通りはいちゃって。フーゾクの店が並んでる通りで、高下駄はいたすごいでっかいオンナたちが、みんなブリブリで立ってて、何だ、ここは!?って。
で、ウォーカーヒル。念願ですよ、カジノ。行ったはいいけど、ルールしらないから、どうしたらいいかわかんない。とりあえずおそるおそるバカラの席に着いたら、隣のおばちゃんが日本人で、どっちか賭けるだけでいいんだよって教えてくれて、それで安心して。
10万円金用意して、それぐらいだったら負けてもいいやって思ってやったら、勝った。うちが勝ちはじめると、まわりの客ものってきましたからね。10万円勝って速攻やめ。
ギャンブルに関しては、海外でも、コトバわかんなくてもいけるっていうか、自分なりの持論があるんですけどね。顔です。人が相手の場合は、空気と人。機械じゃないかぎりは、人の顔を見て賭けていく。
それでウォーカーヒルでも初めてなのに勝ったんですね。
初めての海外旅行は島だったけど、あの岩場に立った興奮を味わえてよかったですね。ただ人にどんなところだったのよと訊かれても説明できるもんじゃないですね。
次はどこへ行ってもいいけど、絶対都会に行こうと思って、ニューヨークに決めたんです。