プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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今年、2013年、次つぎと友人たちが鬼籍にはいってゆく。長い闘病生活をつづけていた戸井十月も、その五大陸的冒険や中南米的革命に彩られた64年の人生を終えた。
戸井さんと初めて会ったのは、70年代の終わりだったか。会場につくのが遅れ、聞きそびれたが、弔辞を読んだ写真家・関口照生が、新宿ゴールデン街でぼくから戸井さんを紹介してもらった、といっていたと、出席者から教えられ、やはりよく会っていたのは、新宿で遊んでいた70年代の終わりの頃だろう。
業界的には、戸井さんはばりばりの全共闘あがりの闘士で、完全に左派のイメージだったので、ぼくの属する世界とは無縁のはずなのに、つまり向こうは硬派、こっちは軟派、まじわりようがないのに、親しかった。
というのも、たったひとつ、共通の関心事があったのだ。
赤道直下の楽園バリである。バリの、魔法のキノコである。
それを求めて戸井さんと2度、バリに行った。
70年代には、スティーブ・ジョブスの伝記に詳しく書かれていたが、ポストヒッビーエイジでありながら、アシッドと精神世界がより深くむすびつき、現実の向こうにバーチャル・ワールドを求めようとする文化はウエストコーストでは主流となっていた。
アジアでは、バリが、アシッドの原型であるマジック・マッシュルームを自由に摂取できるということもあって、70年代にはスピリチュアル・トリップの聖地になっていた。
そこに、ぼくらは行った。ぼくは、ひたすら幻覚を求めたが、戸井さんは成分や歴史に関心があったようだ。
その2度のバリ旅行で親密さは深まり、以後亡くなるまでの長いつきあいになるのだが、仕事はまったくしていない。
一度、自分が関係していた文芸誌に忍者小説を書いてもらったことがあり、戸井さんからは、彼がプロデュースした左派系文化人たちの共著に、お前も書けと声をかけられ、執筆した。
これは戸井さんのアイデアだろう、タイトルは「明日は騒乱罪」、戸井さんのほかに執筆陣は収録順に糸井重里、岡留安則、笠井潔、亀和田武、田家秀樹、田村光昭、生江有二、橋本治、森永博志、三橋俊明の総勢12名、ぼくだけ一番年下ということもあって、なんか異質感はあるが、幕末の志士みたいな印象だ。
この本は、2011年に新装版で復刻したようだ。
これを手に入れれば、1980年に彼らが何を考えていたか再確認でき、そのときの自分自身に再会することができるだろう。
何よりも、戸井さんとバリで過ごした時間を思い出すことになるだろう。
あらためて、いまこの本の重みを感じる。