プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)
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2013年2月初旬。
全新聞の社会面のトップニュースは〈東シナ海、海自護衛艦に中国艦がレーダー照射〉、ミサイル発射の脅しを仕掛けてきたという緊急事態を報じていた。
この週の『週刊文春』では、その緊迫事態に対応するかのように、「かの国に告ぐ、尖閣は諦めよ!」という挑発的タイトルで、海上領土の防衛をする陸上自衛隊の精鋭チームが米海兵隊と、カリフォルニアの砂漠と島で離島奪還の演習をくりひろげてる、そのドキュメントが掲載されていた。
尖閣をめぐる日中の争いは、いまや一触即発、戦闘は想定内に入ったか?
ある時代、島はこの世の楽園の象徴だった。無人島はロビンソン・クルーソーの冒険境だった。
しかし歴史を振り返ってみれば、カリブの島々は黒人奴隷が労苦を強いられた哀しむべき植民地だし、太平洋戦争では沖縄を含む太平洋の島々が地獄の戦地と化した。その最たる島が硫黄島だ。
それでも戦後はハリウッドがハワイやタヒチを舞台にパラダイス映画を作り、ハワイアンやカリビアンの楽天的なポピュラー音楽も流行し、島=常夏の楽園像は復興し、70年代以降はジャマイカからレゲエ、バリからガムラン、イビサやタイの島々からはレイヴ、沖縄からはチャンプルーと主に音楽、民族文化が発信されてゆき、島の文化は大きな影響力を持つようになった。
都市生活者が時間や金や仕事に追われストレスを抱えれば抱えるほど、人々の未開の島への憧憬は強くなり、楽園への旅はブームになっていった。
70年代の終わり、ぼくはバリ島に行き、マジカルな体験をしたことにより、アイランドトリップの虜になってしまった。
近くは伊豆大島から遠くはカリブの南端のバルバドスまで世界の島々をめぐっていった。
島への旅の気分は“COSMIC JOURNEY TO ISLAND”、宇宙旅行そのものだった。時代は宇宙系SF映画全盛期、『スタートレック』の気分で旅していた。
20年程たって、旅行記や日記、メモ、スケッチ、ドローイング、写真を一冊の本にまとめてみようと想い、『地球の星屑』というタイトルのもとアート色の強い単行本をぶんか社から刊行した。1999年だった。
2004年に高橋歩からの『地球の星屑』をニュー・エディションで復刊したいという話をうけ、彼が代表をつとめる出版社A-WORKSより新装本が刊行された。
タイトルは『地球の星屑』から『アイランドトリップ・ノート』へと変わった。
装丁は4面2重のカバーで、巻頭に仕立てたヴィジュアルのページも旅の気分満載の世界を創っていた。ADは高橋実。
『アイランドトリップ・ノート』がぼくの代表作といってくれる人も多い。
自分が本気で夢中になったことを御機嫌なデザインがほどこされ本としてのこせることは、かけがえのよろこびだ。
サテ、尖閣の話にもどると、「領土」「領土」とマスコミは騒いでいるが、尖閣に関する発言でぼくが一番驚いたのは、友人の久富信矢の一言だった。
久富は人気バーガーショップ〈GOLDEN BROWN〉のオーナー&シェフで、日頃ソロモン諸島への冒険的航海が生涯の夢と語るロマンチスト。その彼が尖閣を「カッコいい島ですね」と語ったのだ。
確かに、島の形は、海賊船が似合いそうな秘境を想わせた。
あの島をそんな風に語ったのは、ノブリンだけだろう。
政治の網に引っかかると、島は「領土」や「植民地」という概念に封じ込められて、人々を盲にしてしまう。
あの島も、ひとつの星なのだ。