森永博志のオフィシャルサイト

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プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)

文庫版『クラブ シャングリラの予言★「快楽」都市遊泳術』』も、トランクに発見した。

オリジナル版では、伊丹十三、篠山紀信、ユーミン、ムッシュ、坂本龍一、谷村新司、竹永茂生が賛辞を寄せてくれ、村上龍が後書きを書いてくれた。

普通は、せいぜいが文庫化に寄せて、という作者の後書きを加えるぐらいで簡単に二次商品化するのに、これは、大胆な再編集がなされている。

オリジナル版はテキストの分量が膨大で、ぶ厚い書物となってしまい、値段も高かった。旅に持っていきたいのに、かさばるのが難という読者の意見もあって、文庫化にあたっては、半分程に減らした。普及版というわけだ。

新たにロバート・ハリス、チャー、森雪之丞、装幀画も描いてくれたマヤ・マックス、矢部直(UFO)、そして大文芸評論家の福田和也が賛辞を寄せてくれた。チャーはまったくクラシャンには触れず、不良論を書いていた。

それ以外に、かまやつさんとユーミンをゲストにお迎えしての特別対談を2本収録している。

改めて、賛辞を読み、福田さんがいまもWeb版として継続してるクラシャンの本質を見抜いていたことに驚いた。改めて読み返し「そうなんですよ、福田さん!」と声に出して言いたかった。

評論家という仕事の、料理でいうところの捌きの冴えを教えられた。福田さんに見事に捌かれている。


クラシャンのはじまりは、ぼくらは最長の関係をつづける友人だから、お互い気心も知り尽くし、ふたりとも何よりも自由を尊び、享楽的町遊びが生きがいだから、毎月一回会って、お互いの遊びぶりを好き勝手話そう。それを雑誌に発表しよう。題して、クラブ・シャングリラ。

そっからはじまった。

それが、ぼくらも知らぬうちに福田さんが評するほどの書物に化けていた。


雑誌連載及び文庫版の編集担当は中西大輔だった。

最近、彼とむかし話しをしていたら、当初、連載開始と同時に読者不人気一位だった悪名高いクラシャンは「それさえなければ、買うのに」と言われるまで堕ちたが、「それ言ったの山下達郎ですよ」(中西)と聞き、思わず爆笑してしまった。

あまりの不人気のため、ついに連載中止を編集長から告げられ落胆した直後、もう、これは悪運の強さとしか言いようがない、『ダカーポ』の人気記事ベスト10にチャート・インし、『噂の真相』で作家の中平まみさんが、クラシャンを褒めるコラムを書いてくれ、連載中止が中止となり、続行となった。

やがて、人気最下位にあったクラシャンは淀川長治の連載を抜いて2位に急上昇した。



二十一世紀のビルドゥングス・ロマンのために☆福田和也



僕の義弟が、ーーー彼はまったくの堅気で、僕とは違うまともな生活を送っているのだがーーーこの対話、つまり当時の「クラブ シャングリラ」を楽しみにして、『エスクァイア』を買っていた。

とびっきりに内容が濃いのに、堅気読者をもっていることが、とても羨ましかった。この対話のどこにそのような魅力があるのか、と云えば、それはきわめて今日的な教養ということになると思う。

若い人たちなんていうと、爺むさいんだけど、学生諸君を見てたって、可能性のある子、切り開いていける力をもっている子というのは「教養」をもっている人たちだという気がしている。

「教養」なんて七面倒臭い言葉を使ったのは、もちろんワザとなのだけれど、現代哲学とか(それも大事だ)、クラシック音楽とかロココ美術とか(本当は嫌いじゃないけど)のできあがったアカデミズムじゃなくて、自分の生理にしたがってとことん映画とか、音楽とか、酒場とか、本とかつきあって、つきあった末に、作り上げた感覚と趣味の形、洗練としての今日的な意味での「教養」だ。

そういった意味で、この対話は、新しい都市的な教養主義にとってのバイブル、大袈裟にいえば、二十一世紀の『ウィルヘルム・マイスターの修行時代』とか、『魔の山』のようなものだと思う。

「ストリート感覚」なんていう半チクな言葉が流行っているけれど、街に本当に入り込む、街に学ぶっていうのは、一つの切り口だけでできるものではない。

飲食から享楽から、自分の生きるよすがのすべてを街を歩き、街で出会うさまざまな光景や事物のなかで作って行くということなのだが、その気構えがこの対話は、本当にしっかりしている。

まさに教科書だ。それは様々なパフォーマンスやアルコールにたいする感覚だけでなくて、駅ビルの食堂なんかもきちんとチェックしている、くまなく歩いている感じというか、貪欲さがあって、しかもそれが全然ナチュラルで、目が吊りあがった感じでないのが素晴らしい。

いずれにしても本書は、あと三十年もすぎれば二十世紀末の東京を知る第一級の資料としてもてはやされることになるだろうけど、今の時点で読んでいるあなたのほうが、もっともっと幸せであることはいうまでもない。

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