森永博志のオフィシャルサイト

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プロフィール★森永博志 (もりなが ひろし)

MAYAに作詞

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今、AMAZONのCD新譜売り上げランキングで話題になっているアルバムがある。 5月15日に発売されたそのアルバムは、ジャズ・シンガーMAYAの『しろいくろ』(テイチクエンタテインメント)という作品だが、面白いことに新譜のジャズ・ヴォーカル部門と歌謡曲部門の両方で1位を獲得しているのだ。 なぜにジャズ・シンガーのアルバムが歌謡曲ファンにもアピールしているのだろうか。


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MAYAは2004年にメジャー・デヴューしたジャズ・シンガーでこれまでに16枚のアルバムを発表し、英語やラテン語など9か国語で歌えるスキルを持ち、ジャズの専門誌「Swing Journal」で2度のゴールド・ディスクを獲得するほどの実力派シンガーとして、日本のジャズ・マニアには知られた存在だった。だがそんな彼女の転機となったのが故浅川マキや桑名正博等のプロデューサーとして知られる寺本幸司との出会いだった。寺本氏は彼女にちあきなおみや浅川マキ等々、日本語のカヴァー曲ばかりを歌わせたライヴ・アルバムをプロデュースし、そのアルバム『LIVE MAYA』が2017年12月に発売されると、ジャズ以外の歌謡曲やJ-POPファンの間でも彼女の歌の確かな歌唱力と表現力は静かな話題を集め始めた。そして約1年半後に満を持して発表されたのが今回のニュー・アルバム『しろいくろ』であり、全てが彼女のための日本語のオリジナル曲で構成されている。


アルバム・タイトル曲など3曲でMAYA自身も作詞や作曲に挑戦しているが、他の曲も歌謡曲の作家やニュー・ミュージック系のシンガーやロック評論家など、幅広いジャンルの人脈が彼女のために楽曲を提供している。曲調も歌謡曲、ラテン、フォーク、ロック、エスニック等々、実にバラエティに富むが、不思議と違和感なく聴きとおせてしまえる。それは一つにバックに全面参加しているベテラン・ジャズ・ミュージシャンたちとそのリーダー的存在のジャズ・ドラマーの松尾明をサウンド・プロデューサーに立てた見事なアレンジ力と演奏力で、例えば歌謡曲っぽい楽曲も、実にジャジーなジャズ・アレンジを加えた聴き応えのある作品に仕立て上げている。そしてそのアレンジにのって単なるテクニックを超えた、聴く者の心に語りかけるようなMAYAのスピリチャルな歌唱が印象に残る。


歌謡曲の大御所、美空ひばりや青江三奈なども若い頃にジャズを歌っていた時代があり、ジャズ・アルバムも出しているが、そのジャズはやはり海外のジャズ・スタンダードを持ち前の歌唱力でカヴァーしたものだった。また日本のジャズ・シンガーたちも、殆どが外国のジャズ・ナンバーを歌うのが主流となっている。だが、今回のこの『しろいくろ』は、歌謡曲やニュー・ミュージック等といった狭いジャンルで音楽を分けるのではなく、アレンジ力や歌唱力や表現力で、それはどのような曲調であれ、ジャズとして聴くこともできるし、もっと言えば、ジャズなど聞いたことのない人にも、そのシンガーの歌の力はジャンルを超えて人の心に伝わるということだ。その意味で今回のMAYAのアルバムが、ジャズ部門でも歌謡曲部門でも求められているというのは、彼女の歌唱がジャンルを超えた表現力を放っていることの証であると思う。


そのMAYAのアルバムのタイトル曲のプロモーション・フィルムも話題になっている。タイトルの「しろいくろ」に合わせたモノクロ・フィルムだが、男女の別れの機微を歌ったこの曲をギリシア神話のオルフェとユリディスの物語のオマージュ風に仕立てたひとつのアート風ショート・フィルムになっているのが面白い。オリジナルの物語ではオルフェがユリディスを振り返るのだが、このショート・フィルムではユリディス役のMAYAがオルフェを振り返るというシチュエーションになっている。MAYAにとっては女優初デヴューになるようだが、初演技にしてはなかなか感じを出している。


このMAYAのアルバム『しろいくろ』が、ジャズや歌謡曲やJ-POP等といった狭いジャンルを超えた、新しい時代のスピリチャル・ミュージックとして広く認識されることを願ってやまない。


鳥井賀句(音楽評論家

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