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TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 35
2016年7月26日収録
@円かの杜
TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 35
2016年7月26日収録
@円かの杜
ひさしぶりのweb版シャングリラ・トーク。
ふたりのトークは、中断してしまったわけではなく、昨年秋からは『ラジオ・シャングリラ』なる番組をスタートし、今年の春までは、関西圏のFM COCOLOと全国ネットのニッポン放送で毎週土曜日PM8:00~9:00オンエアー。
その後、プロ野球のナイター放送がはじまったことにより、ニッポン放送はいったん休止、しかし、好評だったので、FM COCOLOで毎週日曜日PM4:00~5:00、いまも継続している。
他にも焙煎の【トリバコーヒー】のサイトのシリーズトークにもゲストに呼ばれ二回にわたりトークしている。
web版シャングリラでは月いちトークだったが、ラジオは週いちと回数が増し、しかも、実際に話題となった音楽をフルで流すので密度は濃くなっている。
マニアックな内容の割には評判も良く、番組のファンだという小林武史さんやスカパラの谷中敦さんやミックとは旧友の小坂忠さんがゲストで来てくれた。
ひさしぶりに箱根の【円かの杜】に息抜きに出かけようとミックからの誘いにのり、いつものように六本木のミックのオフィスでPM2:00待ち合わせ、ミックの運転する車で一路箱根に向かった。
車中では、僕が用意したデヴィッド・バーン監修による2枚組ベストトーキングヘッズ『Popular Favorites1976~1992 SAND IN THE VASELNS』をCDプレイヤーにセットした。
最近、デヴィッド・バーンのギター・プレイが実はかなり斬新なことに気づき、それをミックに伝える。聴いて、ミック「確かに、カッティングが凄いわ」「バーンは、エレキ・ギターの音に未来を見つけたとライナーに書いてんです」「B-52も同じだね」、、、テルミンのような音まで奏でている。「ジャンゴにも通じるな」とミック。
音楽の話は晴れた日に心の野っ原でキャッチボールをしているような気分だ。
それぞれの直感を投げ合う。
「ドラムやベースでなく、ここまでリズム・ギターでリズムを刻めるプレイヤーは珍しい」と僕が言えば、ミックは「それ、できるのジプシー・キングスとかな」、、、
「まさにビートにのって、あっという間に箱根山中に到着。
神韻宿す空気に触れ、部屋に入り備え付けの露店風呂に浸かると限りなくレイド・バックしていく至福感に浸る。
一時間後、早夕食時になり、主人のまっちゃんこと松坂氏と割烹スタイルのカウンター席につく。
松坂 : マッケンさん、最後来たのいつかな?
M’(森永): 自伝書き上げた時だね。1年半前かな、あんときは【早雲閣】だよ。
松坂 : そうなんだよ。後書きに【早雲閣】にてって書くっていってたのに書いてねんだもん。
M’: だってさ、あれ、小説だから後書きないんだよ。でも、間違いなく【早雲閣】で脱稿した。
松坂 : 囲炉裏でやってたな。
M’: ところで、今日は4時に着いた?
M(立川) : いや、もっと早く着いた。3時35分くらいだね。東京2時か3時にたてば、道も混んでないから、そんなもんだよ。
M’: 2時間超えると、遠出気分になるけど、日光とか。
M : あっちは景色が遠い。箱根の方が景色が近い。
M’: 道がいいね。
M : 小田原ー厚木道路がいいね。前半はいまいちだけど、後半はほのぼのしていて。
M’: それで、旅館に着いて、ロビーでウェルカム・ティー飲んで、スモーキング・ルームで一服し、部屋に入ったら、蜩が鳴いてるの。耳澄ますと、静寂のなか蜩の鳴き声と露店風呂の湯のせせらぎの音しか聴こえない! こんな贅沢ないね。
松坂 : マッケンさん、それ、静寂は金で買えないって前から言ってたじゃん。
M’: その静けさを買いにくるんです。で、5時過ぎたら、蜩の声、ピターって鳴き止む。初めて知った。
M : 蜩はいいですよ。この前、僕ね、京都の美山に行ったんです。そこに芦生の森林研究所があって。京大が1921年に借地契約して、広さは4200ヘクタール。そこ、京都のあの碁盤の目の街が全部入ってしまうくらい広大な林なの。
M’: そんなとこが京都にあるんだ?
M : ある。しかも、そこ原生林なんで、京大が研究所おいて、いろいろ研究してる。その林で蜩が鳴いてて、川のせせらぎの音も聴こえてね。
M’: 何度も箱根に来てるのに、蜩の声は初めて聴いた。
松坂 : そうかも知れない。マツケンさん、夏、暑いときは来てないかもしれない。
板前さんの五十嵐さん、登場。惚れ惚れするほど板前風情を感じさせ、
M : ヴィジュアルいい! ハッキリいうけど、料理は料理人のヴィジュアルが大事! 二枚目とか、そういうんじゃなくて、板場にあうルックスってある。
松坂 : 似合ってるよな。
M’: 武闘家みたいな、達人感ある。
松坂 : 慣れてるからさ。カウンターで長い間、仕事してきたから。
M’: 食じゃないけど、最近、斎藤隆介という人が聞き書きした『職人衆昔ばなし』という本読んだら、本物の職人は話しも達者だね。蜩の話しに戻るけど、蜩って、日が暮れはじめるとピターッて鳴き止むのかな?
M : こだわるね。
M’: だってさ、60年以上も生きてて、そんなこと知らなかったんだよ。けっこう、ショック!
M : 藤沢周平の小説で『蝉しぐれ』ってあったね。
M’: でね、話しは蝉のことじゃなくて、この【円かの杜】のことで、今日思ったのは、30年ほど前のバリのチャンプアンにそっくりなんですよ。ウブドの奥の。
松坂 : ウブドは知ってるけどな。
M’: ウブドは観光地じゃない。チャンプアンはウブドの先の山中の農村で、渓流が流れてて、そこの草深い谷間にプール付きの屋敷があって、そこ借りて、長期滞在するのね。そこに、此処、近い!
M : でも、前から、此処来ると、マッケン、いつもバリっぽいっていってたよ。林の感じとか。
松坂 : そういう会話、ふたりでしてたよ。
M’: そう。やっぱり、いままでいろんなとこに行ったけど、バリのチャンプアンが一番よかったな。大竹伸朗とも行ったし。
松坂 : この雲丹、何処の?
五十嵐 : 北海道です。今日、送ってきたものです。
M : すごく美味しい。この雲丹、シャンパンと合うね。
松坂 : うん。いい感じだよ。
M’: これ、何ですか?
五十嵐 : 芋茎です。
松坂 : やっぱりな、美味しいもの食べながら、気心知れた人と話すのが一番いい。
M : さっき、TV見てたら、琵琶湖の蓮、全滅したらしい。いまの時期ってね、蓮の花が湖面に咲き誇って、蓮舟みたいのが出て、予約でいっぱいになるくらい凄い人気なんだけど、ミシシッピー赤亀が繁殖しちゃって全部蓮の根から食っちゃたんだって。
M’: それ、無惨! (品書きがないので、食材が何かわかりかねるのもあり)これ、何って聞くのも野暮かな?
松坂 : いいよ、聞いて。
M’: この甘露煮は?
五十嵐 : 鮎です。
M : これは美味しいからとってこ。(と、皿を脇に寄せる)
松坂 : (笑いながら)美味しいの残す。お子ちゃまだよ。
M : これはシャンパンより日本酒のが合う。絶対に合う。
松坂 : そうか、そういうことか。
M’: まだ、前菜に入ったばかりだけど、レベル、めちゃくちゃ高い。
M : その鮎の話しなんだけど、美山でね、鮎が釣れる川があって、別のところに鮎釣りで有名な川があるらしいのね。でも、美山の川は護岸工事してないんで、鮎釣りの人はそこの方が、面白いのと、美味しいんだって。
松坂 : 五十嵐君の兄が鮎釣りの名人なんだってな。
M : 何処でやってたの?
五十嵐 : 新潟の村上です。
松坂 : そのうち、仕事落ち着いたら、行ってせしめてきてよ。
M’: これは?
五十嵐 : 平目です。
M’: 平目! 塩がそえてあるっていうことは、塩で食べる?
五十嵐 : 醤油もありますので、お好きな方で。
M’: (塩で食べ)塩で食べるの初めてだ。うまい! めちゃくちゃうまい。
M : 枝豆もおいしい。けっこう口うるさい人が言ってたけど、枝豆でその店の味のレベルがわかるって。最初に、枝豆でるじゃない。それで、豆の選び方とか、茹で方、塩加減で、板前の腕がわかるって。
五十嵐 : 三島の松村さんが生産者です。
M : この枝豆、本当にうまい。
松坂 : 鮎と日本酒、合う。俺は、実は、鮎食わねえんだけど、これ、食える。
M : マッケン、鮎は日本酒とシャンパンとで、ここまで違うんだというのをわかって欲しいね。
M’: はい。なるほど、この鮎の苦味と日本酒の甘みが合うんだね。
M : シャンパンだと、鮎の苦味が生臭く感じる。
M’: 日本酒と合わすのが和食の真髄。
M : 京都でも観光の店はだめだね。それで、東京から来た人が、地元の人に、あそこの店に行ってみたいというような店は、けっこう、やばい。
松坂 : 概して京風料理をうたっているところはダメなんだよ。
M : ダメですよ。
松坂 : わざわざ、京風料理って書いてるとこは。
しばし、食すことに没頭し、沈黙。
M’: 子供のころね、正月になると、家族で熱海の温泉に来たのね。その頃の温泉からすると、凄く変わったね。この世に変わったものは多々あるけど、例えば映画館。映画館は、この前、浅草六区の映画館街も根こそぎなくなったけど、いまのコンプレックス型より昔の方が全然いい。喫茶店もいまのカフェより昔の喫茶店の方が全然いい。ほとんどのものは昔の方がいいんだけど、温泉旅館はいまの方がいい。
松坂 : いや、両方、両方。昔だとさ、作家が泊まって小説書いてた旅館とかあるよ。
M’: でも、食事ひとつとってもいまの方がいいよ。
M : 伊豆修善寺の旅館とか、マッケンとも行ったけど、洗練されてないんだよ。
松坂 : この鯵、うまいな。
五十嵐 : ただ新鮮な鯵を切ればいいっていうわけではないんです。
M : さっきの平目だって、五十嵐さん、形が小さいと言ったけど、変にでかくて、脂がのっちゃってるやつより、あの型で、あの食べさせ方だね。
M’: 塩で食べれるなんてね。よっぽどいい平目なんだね。醤油つけちゃ勿体ない。
M : あれ、もう少し脂のっちゃったら、昆布でしめちゃった方がいいよ。
しばし、食楽に耽け、、、
M’: それでね、また旅館の話しになるけど、旅館にいて、時間は余る。何するか? もちろん温泉には入るけど、温泉街なら、外をぶらつける。でも、山の中だと、何する。
松坂 : そういうことを教えてくれる大人がいなくなったのがダメなんだよ。
M’: でね、今日は、多分、夕食までの時間は暇だろう、と。そんとき手芸やってたんですよ。
松坂 : マッケンさんらしい。
M’: 手芸といっても、藍染したシャツにコラージュ・アートみたいにいろいろ縫い付ける。そうすると、この静けさの中、蜩と湯のせせらぎ聴きながら、針の穴に糸通し、針先の動き一点に集中するわけですよ。
M : 意表ついてるね。
M’: 昔は相手がいれば、碁とか将棋に興じたんじゃないかな。
松坂 : そういうこと。立川さん、上にあるのが耳、下が身、俺の大好物の烏賊だよ。レモンと山葵で食う烏賊!うまいでしょ、コレ!(と、興奮気味)
M : シャンパンは合うから、日本酒でいってみよう。日本酒は鶴の友とかあのへんがいいね。冷酒だと、烏賊のサッパリした味に対して酒が主張しすぎになる。
M’: しかし、この飾りっ気のない出し方も凄いね。
五十嵐 : カウンターでは飾り気なしにしてます。
M’: 本質だけ。
五十嵐 : 食べ物で大事なのは応用ですね。
M’: 食べ物は応用!
五十嵐 : 応用です!
松坂 : いいな、さっきマッケンさん、手芸の話しで、どっかいっちゃってる感じだったけど、応用でだいぶ帰ってきたな。
M’: あんまり美味いんで写真撮るの忘れちゃたよ。
ーー五十嵐さん言うところの「応用」の技の効いた穴子、茄子、鱒の料理がつづくが、どれもが本質勝負をしていて、凄みさえ感じ、これは、快楽の師・田名網敬一に是非とも食していただきたいと感じ入り、味の放つ至福力を改めて認識した。10月に予約をいれた。
【追記】円かの杜では、まっちゃんが、作家が泊まった名旅館の話をしていたが、まさに、そういう歴史を誇る旅館に宿泊した。
ブック・ディレクターの幅君から、
兵庫県の日本海側にある城崎温泉に
志賀直哉が贔屓にしていた三木屋という旅館がいまもあり、その旅館のクリエイティブ・ディレクターをしていると聞き、いつか訪ねてみようと思っていた。
甥っ子の邦彦や彼の先輩の神田恵介、それに早稲田大学つながりのYO-KINGたちが先に訪ね、もの凄く楽しかったと聞いていたので、早く行きたいと気持ちは高揚していった。
行ったのは9月の末、まだ真夏を思わせる日だった。
空港からは車で30分ほど。
懐かしく感じる温泉街の通り沿いに
目指す旅館はあった。
二階の部屋に通されると隣が志賀直哉が『暗夜行路』を執筆した部屋だった。
すでにその部屋はなくなってしまったが、やはり三木屋で短編『城の崎にて』も執筆し、温泉と文学とのつながりを語る格好のネタになった。
志賀直哉の部屋は、ちいさな書院造りだった。まるで、そこに作家がいて、いまは外出中を思わせる空気感満ちる部屋の床の間には、ビュッフェ調の肖像画が飾られていた。
隣の部屋に、いるはずもない志賀直哉の気配を感じ、夜明け前に、数日前に
急死した友人を追悼する文を、まさに
城の崎にて書いた。
古い旅館の部屋は、数寄屋風で実家に帰った気分にさせてくれる。
気持ちが帰るには城崎温泉の三木屋みたいな古風の旅館がよいだろう。
気持ちを先進させるには箱根の円かの
杜がよいだろう。
まっちゃんの言う通りだ、両方よい。
ついでというわけではないが、どうせなら、訪ねた地に見た驚異的名所を紹介しておきます。
まずは、出石にある近畿最古を誇る芝居小屋の永楽館。以下、写真。
そして、太古に形成された玄武の神殿。以下、写真。
続く…