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クラブシャングリラ5

TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA5
2012/4/22収録
@Va-tout(六本木)

一億地図

日曜日の夜に会うことになった。最初予定していた店は日曜日は休業だった。

どこにしようかなとしばし思案中に、六本木のBrasserie 〈Vatout〉が想いうかんだ。

そこで、10年ほどまえ、続『シャングリラの予言』(東京書籍)の刊行パーティーをひらいた。

またミックの還暦のパーティーも〈Vatout〉が会場だった。

 

ぼくらがよくパーティーにつかわせてもらっていた西麻布の〈AMRTA〉は去年末にひっそりとクローズした。想い出の店が消えてしまうのは、ぼくらみたいな巷系にはとてもさみしい。

 

5月間近だというのに、つめたい雨が降り、肌さむい夜、web版シャングリラの第5回目を〈Vatout〉でおこなった。

地図

1969年に出会ったころも、こんな夜があった気がしたが、でもぼくらは確実に年をとっている。

ぼくらは会ったときふたりあわせての年齢は39歳、ボリス・ヴィアン逝去の年齢だったが、生きのびて、いまふたりあわせて125歳になった。

でも話はつきず。

今月は東京ロマンチカからアルチュール・ランボーまで。間に、山崎ハコ、立川の〈シネマシティ〉、『さすらいのカウボーイ』、『明日に向かって撃て』(文春文庫)、PUNKデザイン、古舘伊知郎、ポー夫妻、『裏切りのサーカス』、『ロング・グッドバイ』、『ダークスター・サファリ』、『世界を変えた書物展』…と相も変わらず好奇万象!

M’(森永博志)たまに近所のカラオケ・スナックに行くのね。先日行ったら、どう見てもカタギじゃないと思わせるひとたちが、シャンパン持ちこみではいってきて。

(立川直樹)ヤクザ?

M’じゃなくて。そのひとたちがうたったら、女の声を発して異常なうまさなの。

プロなんだ?

M’そう。4、5人、男。スナックのママがいうには、そのひとたち東京ロマンチカだって教えてくれて、いやー、ものすごくうまい。

ぼくは鶴岡政義さんとも三条正人さんとも仕事してる。カッコいいよ。半端じゃない。スーツの着方とか靴とか。あのひとたちは一般社会から逸脱したところで生きてるよね。もう普通のカタギ世界のうっとおしさからはなれて。

M’キューバでレコード会社やってる日本人がいってたけど、キューバのそれこそブエナビスタ・ソシアルクラブとかのグラミー賞アーティストたちは、日本の70年代の歌謡曲を本気で素晴らしいと思ってるみたいですね。アメリカナイズされてない時代のものを。

だってセルジオ・メンデスは演歌、大好きなんだから。そのムード歌謡もカッコいいけど、もうひとつ、日本独特の興業世界のダークさって惹かれるね。それこそ松尾和子さんがヤクザ者の男が大好きみたいな。

M’『東京アンダーワールド』みたいな。

そうそう。ぼくら前にも話してるけど、『東京暗黒街・竹の家』とかさ、ああいう世界好きで、そこにムード歌謡の世界はリンクするよね。

アリスクリード

M’“東京”ってコトバの切なさとか。

だから『東京アンダーグラウンド』の残像をいま何処に見つけられるかっていったら、やっぱりムード歌謡とかナイト・クラブとか、そっちにしかないんじゃないかな。

M’東京ロマンティカの他には、和田弘とマヒナスターズ、黒沢明とロス・プリモス、秋庭豊とアローナイツ、他には?

敏いとうとハッピー&ブルー、内山田洋とクールファイブとかね。

M’そうそう。いまそのへん、ものすごくカッコいい気がしたな。そのカラオケ・スナックで本人たちがうたうのを聴いて、ゾクッとする。

ぼくはBSでこの間、八代亜紀さんが『サマータイム』うたうの聴いて、すごいなぁと思った。もともとクラブ・シンガーだから。そのとき同じジャズの編成で『舟唄』も、うたって、もう、たまんないね。

M’歌謡曲じゃないんだけど、この間、山崎ハコの新譜聴いてね。

いいの?

M’フォークとブルースとロックと演歌とかいろんなものがミックスされてるんだけど、彼女は横浜で高校生のころピンク・フロイドにどっぷりつかってて。それでデビュー・アルバムが『飛・び・ま・す』ってことだったのかも知れないけど、プログレの匂いするの。

カルメン・マキもそうだよ。

M’日本の音楽でも内向してゆく音楽はプログレ感じる。

ブリティッシュ・ブルースですよ。

M’やっぱアメリカとちがって独特の湿気があるもんね。その山崎ハコのアルバム、原田芳雄さんが亡くなったショックで、歌が書けなくなって、山形に行って何処かに何ヶ月もこもって制作したらしいの。「人間、死亡率100パーセント」なんてすごいです。しょっちゅうは聴かないけど、たまにどっぷりはまって聴きますね。今度、〈スウィートベイジル〉でライブがある。

それ行こうよ。ぼくはこの間、立川に行ったのね。

M’何処?

〈シネマシティ〉っていう映画館。そこの館主に、映画館で何か面白いことやりたいんだけど相談にのってほしいって言われて、行ったのね。

M’〈シネマシティ〉って、ふたつあって、モノレールの方がいいね。

そう。もう近未来都市。レオス・カラックスの映画にでてきそうな。

M’『華氏451』的な感じもあるね。

4写真

でね、映画館でカルロス・サウラの『フラメンコ・フラメンコ』見たんだけど、デジタル映像の美しさと音の迫力に本当にやられたね。

M’ぼくもたまに用事があって立川に行くと、そこで映画を見るけど、確かにすごい!

聞くところによると、東京の映画館で一番音がいいらしいよ。

M’もともと立川って戦後、映画館が10軒近くあるシネマシティで、映画文化はすごかったんです。それが〈シネマシティ〉に継承されてるみたいです。

それでね、『スターウォーズ』の3Dもやってたんで、ぼくはフツー、『スターウォーズ』見ないけど、いやー、すごかった。思わずひきこまれてしまった。

M’近未来都市で『スターウォーズ』の3D。それはすごいだろうね。

まぁ、ぼくらは、この間も話した『キリング・ショット』みたいな程々のB級作品が好きなんだ。

M’スペクタクルまでいっちゃうとひいちゃうんだ。ぼくは最近だと、旧作で『さすらいのカウボーイ』をDVDで見た。ピーター・フォンダが監督・主演した。

アリスクリード

ウォーレン・オーツのでてる。あれは名作でしょ。

M’でね、ピーター・フォンダがインタビューに答えてるメイキングが面白い。音楽担当したブルース・ラングホーンっていうギタリストはディランの『ミスター・タンブリンマン』のモデルになった人らしいのね。あと、美術をやった人は、あの映画がはじめての仕事で、その後、『ブレードランナー』の美術やってるんですよ。

あ、そう。

M’メイキングも面白い。

それでいえばね、最近文庫本ででたんだけど、古澤さんているじゃない。古澤利夫さん。映画界の名物男なんだけど、その人が書いた『明日に向かって撃て!』っていう本がすごい面白いんだよ。いまマッケンがいったような、映画っていうのは美術や音楽、カメラや編集がどのぐらい重要かっていうような裏話なんだけど、内容も濃いうえにすごく文章が洒脱なんだよ。

M’映画は裏話が面白いね。ピーター・フォンダがリスペクトしていたのは市川崑なんだって。

へえ、そう。

M’それで『さすらいのカウボーイ』は西部劇なのに女性が主役なんです。それで市川崑に『さすらいのカウボーイ』は絶讃されたってピーター・フォンダはインタビューで言っていて。でも、『イージー★ライダー』の直後なのにヒットしなかったんだ。

しなかった。アレと同じころ『断絶』っていう作品があったのよ。ジェイムズ・テイラーとウォーレン・オーツの。

テープ
アリスクリード

M’この間、40年ぶりにリバイバル上映してた。

アレも全然当たらなかったけど、『さすらいのカウボーイ』みたくねじれたダークなスピリットがあって、すごくよかったね。

M’デニス・ウィルソンもでてて。ヒーローのいない、ああいう地味な作品、いいよね。最近、銃を撃ちまくる映画見ると、それだけでいやになっちゃう。やっぱね、『ロング・グッドバイ』みたく、ラストに弾丸一発ってカッコいいよね。『イージー★ライダー』も。

新作で『裏切りのサーカス』っていう、ゲーリー・オールドマンが主演のスパイ映画があるんだよ。コレがすごくいい。ダークでね。そしたら先週の金曜日ぐらいかな、朝日新聞の映画評で、これマッケンうれしがると思うフレーズがあった。

M’どういうの?

「ひさしぶりにスパイが歩いている映画を見た」っていう。

M’(笑)いま、スパイ、歩いてないからね。

ダッダッダッダッて、ドバイで宙飛ばれてもこまっちゃうよな(笑)。それアクションないんだよ。

M’スパイなんて裏稼業だもんね。私立探偵もさ。本当は地味なね。

そうだろ。『チャイナタウン』はいいだろ。スパイとか私立探偵物が、どうしてあんな派手なアクション・ヒーロー物になっちゃったかね。

M’ストーリーも陳腐だし。

だってさ、重慶の事件の方が面白いだろ。

M’それ、何?

すごいインパクトだったよ。新聞で見たから余計。それ、重慶に“帝国の王”って呼ばれてたポー・シーライっていう人がいてね。その奥さんが知り合いのイギリス人を毒殺したっていうんで、大騒動になった。だからそれはもう「ポー夫妻の英国人殺人事件」っていうような、もう映画。

アリスクリード

M’あれみたいね、映画の『上海』みたいな。

そうそう。ポー夫妻っていうのがいいでしょ。

M’現実の方がすごいね。重慶が舞台っていうところもね。

新聞にはイギリス人が毒殺されたっていうコテージの写真もでてて。新聞っていう現物を手にとってひらいて、それを見るインパクトだよ。デジタルじゃ、全然、インパクトはないよ。

M’下手したら見落としちゃうよね。

あとね、これは今日話そうと思ってて。

M’何?

先週ぐらいにたまたま報道ステーション見てたら、古舘伊知郎が何かのニュースをやってたのね。そこにサラ・ブライトマンみたいな音楽が流れてて、ニュース映像を演出してるのね。そのニュースが終わったとき、いわゆる「煽りの古舘」といわれた彼がボソッと呟いた言葉がすごかった。

M’何て言ったの?

「何もここまで音楽で煽んなくてもいいと思うんだけどな」って呟いた。それ聞いたとき、TVは相当おかしなことになってるなって。古舘伊知郎がそんなこと呟くってことはさ。

M’この間、若い連中と酒飲んで話してたら、TV局でバイトしてたらしいの。バイトの仕事っていうと、情報収集らしく、例えば、「いまの若者は本を読まなくなってる」というネガティブなテーマで番組を作ると。それで情報収集すると、実は読んでることがわかった。それをディレクターに言うと、データーを読んでないことに改ザンしろって言われたって話してた。

ひどいよな。だから実は音楽も聴いてるし、本も読んでるし、映画もたぶん見てる。

M’そうそう。やっぱり昨日会った若い子が、コレ作ってるんで見て下さいと持ってきたフリーペーパー。(とミックに見せる)

ピストルズ

パンクだ。これなんかセックス・ピストルズだ。

M’もう完璧。エネルギー、感じません。グラフィックの意味、すごくわかってる。

誰だっけ、セックス・ピストルズのデザイナー。

M’ジェイミー・リード。

あいつが肝だった。割れたショーウィンドーの写真とかうまく使ってた。

M’このフリーペーパー見て、ロックはグラフィックがものすごく重要だったんだって再認識した。

パンクのあとニューウェイブになって、そこでモンドリアンとか、ロシア・アヴァンギャルド、バウハウスってでつくした。パンクでダムが壊れて、そのあとのグラフィックは振り返ってみれば百花繚乱だったね。

M’この間も話したアート・スクールの連中が現代アートに失望し、ドッドッてロックの方になだれこんだからでしょ。それがグラフィックの革命になってたんだね。

ホントにそう。

M’いま作られてる現代アートよりむかしのものの方が全然カッコいいもんね。

いま作られてる現代アートってゴミみたいのが多いだろ。きたならしいだけで。

M’ゴミ?

なんか発想っていうかさ、こんなこと考えてるからどうのこうのって、言い訳してる感じがするのが嫌なんだ。やっぱりアートってポッてでてくるもんじゃん。この間、神戸に仕事で行って名古屋に移動する途中、京都に寄って酒井抱一と江戸琳派展見たのね。酒井抱一のすごいのは吉原にいりびたって吉原の花魁を女房にしてるんだよ。それで、四代目八百善のメニュー・ブックなんか描いてるの。素晴らしいですよ。

M’とにかく全部が全部じゃないけど、それこそヘルツォークが撮った3万2千年前の壁画も、過去に作られたものはすごい。なんで、こんなの描けたのっていうくらい。今度、金沢でやる書物展も。

『世界を変えた書物展』!

アリスクリード
アリスクリード

M’全部初版本でしょ。

アレは金沢工業大学のライブラリー・センターの下に貴重図書室っていうのがあって、そこに何年もかけて収集された古書があったんだよ。それを2年かけて準備したんだよ。

M’過去にさかのぼってゆく旅って、いま本当にワクワクするよ。

印刷技術まで見せるからね。

M’だって過去こそ未知でしょ。未来だよ。歴史振り返ると、例えば20世紀は初めの10年ぐらいで新しい芸術運動や社会運動が続々、誕生してたでしょ。キュビィズムもフューチャリズムも、ダダイズムもフォービィズムも。それでロシア・アヴァンギャルドとか、革命運動に発展した。だから20世紀があったっていうくらい。でも21世紀はまだ何もないよね。

ない。全然ない。逆に、全部ピコピコ細分化の方に向かっちゃった。みんなが共通にレベルを合わせられるよねっていう文化になっちゃった。例えば音楽でもただ目先きのアイデアがあればいいかなみたいなレベルになっちゃったし、ものすごく手間ヒマかけて作られた映画とビデオカメラ一台で撮った超常現象の映画が並列で並べられちゃうわけじゃない。

M’長くなるけど、全然ちがう話してもいい?

いいよ。

M’この間、タイトルに惹かれて、『ダークスター・サファリ』っていう旅行記、読んだのね。それは新刊なんだけど、アフリカ旅行記でカイロからケープタウンまで、陸路を旅してくっていう。もう何処もかし処も無法地帯で相当面白い読み物でね、最近読んだ本では抜群だった。それで、エチオピアの話があって、ものすごいことを発見した。

何?

M’アルチュール・ランボーとボブ・マーリーをむすぶ縁。ランボーは詩人廃業して、パリからエチオピアに渡るでしょ。それでエチオピアの軍隊に2000丁のレミントン銃をランボーが売るんです。そのときの司令官がラス・コマンネンっていって、ハイレ・セラシェ一世の父親なんです。

あのラスタの?

M’ラスタファリアンの神様の。それで、ランボーから2000丁を銃を入手したことによって、侵攻してきたイタリア軍を全滅させることができた。だから、ランボーが2000丁の銃を売ってなかったら、エチオピアの歴史はちがうものになってて、ハイレ・セラシェ一世もいないかも知れない。ボブ・マーリーのラスタファリズムもなかったかも知れない。本には、ボブ・マーリーのことまでは書いてないけど、頭の中でランボーとボブ・マーリーがむすびついたんです。

面白いね。

M’その本によれば、エチオピアのランボーはものすごくファンキーな男だったらしい。

話が一段落したころ、店長が席にやってきた。

「すごくおいしかった」

「ありがとうございます」

ミックがフォアグラのテリーヌを絶讃する。すべて値段も手頃だ。スパークリング・ワインのボトルは2900円だった。

テリーヌの話がつづく。

店長が「もっと薄切りにした方がよかったですかね」とミックに訊く。

「いや、自分たちで薄切りにすればいいんだから、これでぜんぜん大丈夫。あとアレだね。ドライ・パパイヤとかオレンジ・ピールそえたらいいかも知れない」

そのテリーヌはインパクトを感じるくらい旨く、ぼくらはむさぼるように食らったが、

「若いひとは、味がくどいって、のこします」

と店長は苦笑いする。

に対し、ミックはすこし憤然とし、

「若い奴がさ、ふたりでこういうの食べて、あんまりうまいんで、もうひとつ食っちゃおうぐらいじゃないとな」

「いまの若いひとはふたつも食べたら鼻血だしちゃうんじゃないですか」

「鼻血だすなら精子だせ!」

ミックの放ったフレーズにみんなで爆笑した。

いつもなら、バーに流れるのだが、その夜は日曜日なので〈Vatout〉で終えた。

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