- TEXT:
- 1
- 2
- 3
- 4
- 5
- 6
- 7
- 8
- 9
- 10
- 11
- 12
- 13
- 14
- 15
- 16
- 17
- 18
- 19
- 20
- 21
- 22
- 23
- 24
- 25
- 26
- 27
- 28
- 29
- 30
- 31
- 32
- 33
- 34
- 35
TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 15
2013/5/21収録
@モツ太郎(大井町)
友人の案内で何度も大井町には行き、その町の京浜東北線と大井町線とりんかい副都心線が交差し時空が歪んでしまっているようなとらえどころのない構造は気に入っていたが、コレといった店にはまだ入ってない。
今月のクラシャンの舞台は大井町にした。Mに「面白い横丁あるんで、ミックの勘で見つけてよ」と伝えると、「まかせといてよ」と威勢のいい鳶のような声が返ってきた。
待ち合わせはステーション。大井町、JR線、品川寄り改札で6時30分。
その時間、MからTEL入り、ちがう改札口にでているのを知った。間伸びしてしまったような光景を広げる町なかで、ぼくらは中国の地方都市で再会するストレンジャーのように、遠くから手を挙げお互いの姿を確認し、やっと会った。
「いや、すごいな、10分電車で来ただけで、この世界は!」。
Mはすでに町に感嘆している。坂をのぼり、石橋をわたり、横丁にはいる。路地は先の先までえんえんつづく。そこにちいさな店がひしめいていているが、新宿ゴールデン街や渋谷呑んべえ横丁とちがい食堂が目立つ。
横丁にはいり、すぐ、〈モツ太郎〉の看板にトロレバーの一語を見て、「ここありかもね」(M)、
「じゃ、ここ第一候補ね」(M’)。
さらに歩いてめぐる。
「肉系が多いね」(M)
「そうですね、肉屋がそのまま立ち呑み屋になっている店もあるし」(M’)
「凄いわ。こっちにも横丁あるんだね?」
「もう気分はダウン・バイ・ローですね」
「凄いね」
ランニング・シャツとステテコ姿のオッサンが通りに椅子をだし屋台風の店の前で飲んでいる。
こういう横丁を歩く時間は、いまの東京にあって、どんなエンターテイメントよりもドラマチックな感情に満たされる。
戦争をはさんだ昭和の時間がサンゴのようにこしらえた、それは造形物だ。そこに人は郷愁を求めてやってくる。
寺山修司が愛した世界だ。
「やっぱり、最初の店か?」(M)
〈モツ太郎〉にはいる。カウンターだけの店。
まだ客は誰もいない。
いつものようにビールで乾杯し、トロレバー、ジューシーつくね、鶏ホルモン・スパイス付をたのむ。
森永(以下M’)この前、立川に用事あって、〈立川シネマ〉で時間があったので映画見たの。
立川(以下、M)何、見たの?
M’: 『L.Aギャングストーリー』。
M : 面白かったろ?
M’: 何が凄いかって、ショーン・ペン。よくぞ、あんな極悪非道の悪役やったよね。
M : いやー、もう怪役だね。
M’: デ・ニーロにはもうできないね。
M : デ・ニーロはこの前の『世界にひとつのプレイブック』にいかれたオヤジ役ででてたけど、前のエッヂのきいた印象はもうない。
M’: デ・ニーロの真骨頂はアレ、『アンタチャブル』のバット撲殺シーン?あそこでは、どんな音楽、流れてたの?
M : あのシーンは確か音楽は流れてない。前後の記憶が定かじゃないんだけどさ、えーと、とにかくデ・ニーロがオペラを見に行って泣いてるんですよ。
M’: アル・カポネがオペラ見てね。
M : そう、桟敷席でね。アリア聴いてウルウル泣いてる訳ね。その前後で、バットで裏切り者を殴り殺すところが凄いんだね。
M’: あのバイオレンス・シーンは身の毛もよだつほどだった。
M : 凄いよね。旨!トロレバー!旨いね、これ!!
M’: うん。しかし、ああいう『L.Aギャングストーリー』とか、僕らの大好きな『L.Aコンフィデンシャル』とか、B級のL.A物はいいですね。
M : 劇画ですよ、完全。やっぱり劇画みたいな映画がいいよ。
M’: アメリカはSF物も限界だし、また戻ってるのかな、1950年代とかに。
M : 反動じゃない?今回のトム・クルーズの『オブリビオン』とか訳のわかんない近未来物に飽き足らない連中がいるんですよ。
M’: ホントですね。
M : だけど、トロレバー、旨い!(店主に)お世辞じゃなく、旨い!
M’: 横丁をひと巡りして、看板にトロレバーを見つけ、気になって入ったんです。
M : この辺、肉系の店、多いですね。
M’: 焼肉と焼き鳥、肉寿司なんていうのもあった。
店主 :最近、増えてますね。
M’: ところで、ぼくは好きだけど、『ジャッキー・コーガン』は、どう?
M : いい映画だとは思うんだけど、ぼくは『L.Aギャングストーリー』みたいに弾けてるほうが好きなんだ。
M’: うん。比べたら、確かに物足りないね。
M : 映画ってさ、ぼくは女っ気が好きなんだよ。
M’: 『ジャッキー・コーガン』は、娼婦がふたり、ちょっと出てくるだけで、まったく女っ気ない。
M : まったくないでしょう。『L.Aギャングストーリー』だと、エマ・ストーンみたいな女がでてきてね。
M’: 超バンプ!情婦ね。
M : 香港映画の『男たちの挽歌』とか、「立川さん好きですか?」って訊かれたことあったんだけど、やっぱり、ぼくはあんまり好きじゃないのは男臭すぎるんだよね。
M’: なるほどね。
M : だから『L.Aコンフィデンシャル』のときのキム・ベイシンガーとかさ。いるかいないかで、全然ちがうよ。
M’: そこか、見所は。
M正統派ハードボイルドでいくと、昔、ほらローバート・ミッチャムとシャーロット・ランプリンの、何だっけ?
M’: 『さらば愛しき女よ』。
M : とかさ、『チャイナタウン』だって、フェイ・ダナウェイだろ。その意味では、女が出てくるか、こないか、それはぼくにとって、すごく重要なんだよね。
M’: ここのところ、ショーン・ペンは『L.Aギャングストーリー』でミッキー・コーエン演じて、ディカプリオは『ジャンゴ』で黒人奴隷農場の非情な主人をやって、ブラット・ピットも『ジャッキー・コーガン』で冷血な殺し屋やって、大物の悪党流行りですね。
M : (出てきた鶏ホルモン・スパイス付を一口食べ)旨!!
M’: シシカバブーみたいですね。香辛料作ったんですか?
店主 :ええ。クミンと唐辛子とピーナッツにカレー粉とかで。女房が作ったんですけどね。
M : (ほとんど叫びに近く)旨いな!
M’: うん。でもなんで、悪党やるのかなぁ?
M : それはさ、やっぱり役者は非日常を演じたいんじゃないの。日本映画がつまんなくなったのは余りにドラマが日常的になっちゃって、テレビと変わんないからだよ。
M’: そうだね。今日はゲンスブールの話でもする?
M : いいよ。なんでも話すよ。
M’: ゲンスブールはダリやピカソの時代とダブっているよね?
M : ちょっとあとだね。セルジュはコクトーとかダリとかフランシス・ベイコンとか、大好きなんだよ。
M’: ベイコンも!
M : セルジュはベイコンが一番好きだったんだよ。それで、いまベイコン展やってるから、NHKの『日曜美術館』で、ベイコン特集やっててね、見たら、ベイコンって写真を元に絵にしてるのね。
M’: そう、そう。ジョン・ディーキンっていう写真家がいつも傍にいてね。
M : そういう表現方法が非常にセルジュと近い。剽窃の仕方がね。
M’: ゲンスブールのレゲエもいいし、タイトルのつけ方もB級SF映画みたいな。
M : マッケン、酒どうする?
M’: 日本酒ですかね。
M : じゃ、まず大関だね。(店主に)どう飲んだらおいしいですか?
店主 :うちは常温だしです。
M : じゃあ、常温でお願いします。
M’: ミックはゲンスブールのことを、何で知ったの?
M : それは、『ジュ・テーム』だね。
M’: いつ?
M : 1969年。
M’: その頃、来日したんだよね。
M : そう。翌年だったかな、『ガラスの墓標』のプロモーションで来日したんだよ。その時、ぼくはヘラルドで会ってるし、赤坂の<ムゲン>で記者会見やった時も、行った。<ビブロス>にも来てたしね。
M’: ジェーン・バーキンと来てたんだよね。それで、その前は?
M : 『カトマンズの恋人』という映画があってね。
M’: あった、あった。
M : ルノー・ベルレーのね。それに、セルジュはポン引きの役で出ていてね。それで気になる存在になって、『ジュ・テーム』で一気に結びついたんだ。それですぐに、『ジュ・テーム』とか『ジェーン・B』のはいったアルバムを買ったのね。あと『悪の華』もね。
M’: 『ジュ・テーム』は放送禁止だった?
M : そう。だからラジオでは流れなかった。シングル盤はA面が『ジュ・テーム』でB面は『ジェーン・B』だったのね。ぼくは『ジェーン・B』が好きでね。『ジェーン・B』はジェーン・バーキンのそのあとの『Baby Alone in Babylone』とか、あのへんに通じるセルジュの美学があるのね。
M’: 詩のような。
M : ぼくがすごいなと思ったのはクラッシックのような音楽に詩の朗読をのせてしまう、そういうセンスを教えてくれたのはセルジュだった気がする。
M’: ミックが本気で傾倒したアーティストはゲンスブールが最初?
M : ピエール・バルーかな?
M’: 『男と女』だ!
M : そう!あれは67年制作で、日本だと公開は68年。いいなと思ったのは基本的にはジャン=ルイ・トランティニヤンとアヌーク・エーメが主演だけど、アヌーク・エーメの死んだ旦那の役がピエールで、映画にはずっとは出てこない。
M’: 回想のシーンだけでね。
M : そう。回想シーンだけに出てくる。
M’: サントラ盤を買った?
M : うん。そしてそのあと、ぼくはピエールのソロ・アルバムが欲しくなってね、当時つきあっていた年上のスチュワーデスにパリで買ってきてもらったんだよ。
M’: じゃあ、ミックは『男と女』、ピエール・バルー、『気狂いピエロ』、ゲンスブール、もうぜんぶ同時?
M : そうだね。そこにドアーズとジェファーソン・エアプレーン、コルトレーンの『至上の愛』もくるわけだよ。
M’: 67年には、『白昼の幻想』もあったしね。
M : うん。しかし、つくね、旨いね!何食べても旨い!
M’: ジューシーつくね!結局、ミックはその後、ピエール・バルーともゲンスブールとも一緒に仕事してるのが凄いよね。
M : そうなんだよ。ピエールともゲンスブールともチェット・ベーカーとも仕事して、日本人だと伊丹さんともやってるしね。伊丹さんも子供のころの憧れの人のひとりだものね。
M’: そうですね。『日本春歌考』で見た。あの映画には串田和美さんもでてたしね。
M : 伊丹さんはリアルな存在で憧れの人だったよ。
M’: 『白昼の幻想』を撮ったデニス・ホッパーもね。
M : そういう意味では、職人の技を盗むみたいなことで言えば、ぼくは彼らを目の当たりにしていたから、稀有な人生を送っているね。
M’: 『ガラスの墓標』はゲンスブールでしょ?
M : あれはホントに凄い!質のいい娯楽映画だね。いろんなディテール、音楽の使い方、キャスティング、すべて完璧だと思った。
M’: 多分、いまそれに近い感覚で小説を書いてるフランス人はクリストフ・バタイユだろうね。『安南』とか『アブサン』とか『時の主人』とか、めちゃくちゃ面白いよ。
M : ぼくはいま早川雪洲の伝記本を読んでいるんだよ。早川雪洲は房総の千倉の生まれなのね。
M’: 海の男だ!漁師?
M : 網元の家の息子ですよ。いわゆる金持ちの家だったから、お母さんが旅芸人を家に呼んで泊まらせて、家で芝居を子供の頃から雪洲は見て育った。
M’: 戦前の漁師って、北海道のニシン御殿とかもの凄いもんね。そこに一流の歌舞伎役者を東京から呼べるほど裕福だった。その本に川上音二郎と貞奴、出てくる?
M : うん。出てくるよ。雪洲と音二郎は一緒にアメリカに行ったんだよ。
M’: あのふたりはもっともっと国際人として評価されてもいいよね。芸術家よりも。
M : もう雪洲は稀代のプレイボーイで女のだらしなさはゲンスブールどころの騒ぎじゃなく共演した女優とはすぐできちゃって、あげく孕ませちゃたこともある。
M’: もう浮世絵の歌麿呂だね。
M : そう、ウタマロ・ボーイそのものじゃないかな。多分、常軌を逸した暮らしをしていたんだろうね。
M’: バロン西も凄かったけど、それ以上?
M : バロン西もバロン薩摩もでてくるけど、藤田嗣治なんかのことは小バカにしてたんだよ。「何がフジタだ」みたいな。
M’: ぼくは最近、『三島由紀夫、左手に映画』という本を読んだ。これは三島さんの映画遍歴を幼少のころから書いた本で、ジャン・コクトーの映画が好きだったんですね。
M : 三島はコクトーを大好きだったね。
M’: それで本人、映画好きが高じて3本の映画に出演してるんですね。最初が増村保造の『からっ風野郎』。これは失敗作でね。それで次は自作自演の『憂国』。で、3本目が五社英雄の『人斬り』ですよ。
M : 『人斬り』はよかったね。
M’: 勝新が岡田以蔵をやって、中村半兵衛役を三島さんがやった。演技は勝新につけてもらったのね。そのへんの裏話が詳しくでてるんです。『人斬り』のあと三島さんは市ヶ谷の自衛隊に突っ込む。本の中に『憂国』のポスターがでてたけど、めちゃくちゃカッコいい!ぼくは公開時に『憂国』を立川の映画館で見てるんです。ポスター、カッコいいよね。
M : うん。カッコいい。
M’: 変な時代だね。三島由紀夫がいて、鶴田浩二と高倉健もいて、デザイン界には横尾忠則がいて、そのひとたちがひと塊りになっててね。三島さんが任侠映画の『博奕打ち総長賭博』と『昭和残侠伝・死んで貰います』を絶賛するんですから。
M : そこに、寺山修司もいてね。
M’: 三島由紀夫という作家はいつの時代にも甦ってくるひとですね。
M : 三島由紀夫と寺山修司ね。
M’: この間、『薔薇刑』をギャラリーで生で見て、衝撃を受け、その本の『憂国』秘話も凄い!
M : ぼくはしばらく前、『憂国』のDVDを京都で買ったよ。
店内にはさっきからずっとファンクなジャズが流れている。ちょっとソイル・ピンプを思わせ気になっていたので・・・
M’: いま流れているのは何?
店主 これはビル・エヴァンスです。ピアノじゃなくてサックスの方です。
M : ピアノじゃない方ね。カッコいいね。
店主 マイケル・ブレッカーのあとはビル・エヴァンスしかいないですよ。お客さんたちはさっきから映画と音楽の話をしていましたけど、そういうご関係の方なんですか?
M : 遊んで生きてるだけなんです。おいしいものを探して、お酒飲んで、そのまま死ねればいいなって。
店主 ぼくもそうなりたいですよ。
M : あのメニューにある羊肉っていうのはあるの?
店主 いま入荷できないんです。
M’: ミックね、2年ほど前に公開された映画で『気狂いピエロの決闘』っていうスペイン映画、知ってる?
M : 知らないね。
M’: 監督はスペインのアレックス・デ・ラ・イグレシアっていうの?
M : 知らない。
M’: これが前回話した『アンダーグラウンド』じゃないけど、衝撃作でね。ひとりの美女をめぐって、サーカスのボスのピエロと雇われの泣き虫ピエロが壮絶な戦いを繰りひろげるんです。美女はボスの愛人なんです。これがゴシックの極致で、タランティーノ大絶賛。
M : 変な映画、多いんだよ。4ヵ月前にwowowでね、ミッキー・ロークが出てる映画を見てね、それも見世物小屋を舞台にしていた。羽の生えた女をミッキー・ロークが見染めてね。
M’: 笑えるね。
M : だろ。で、ふたりで駆け落ちしちゃってね。その女を見世物にして、金儲けしていた、ヤクザの親分に追われて最後殺されちゃうの。
M’: もう変な映画、映画館でやってないね。
M : やってない。wowowでやってる未公開シリーズで変な映画見れるんだよ。しかし、こういうところで、旨いもの食って、酒飲んでると、ビル・エヴァンス、バリバリに合うね。
M’: 血気盛んな感じね。
M : (店主に)いつもビル・エヴァンス?
店主 曜日によっていろいろです。
M : どんなの好きなの?
店主 ぼくはもともとプログレッシブが凄く好きで、特にはキース・エマーソンが大好きです。
M : いいね。キース・エマーソン好きだっていうことなら趣味がだいたいわかる。じゃ、ナイスも好きでしょう?
店主 いいですね。
M : ナイスのブライアン・デヴィソンのソロ・アルバムがいいんだよ。もうジャケット、全面ハッパですよ。凄いんだ。で、ナイスのデビュー・アルバムのタイトルが『Thoughts of Emerlist Davjack』っていうんだよ。エマーソンとリー・ジャクソンとブライアン・デヴィソンの名前をひとつにして、Emerlist Davjack。それの思想っていう。しかし、この店のチョイスは完璧だったな。いるんだ、こういうところに。
M’: 完璧といえば、先週、<PB>の福ちゃんが<レッドシューズ>の追悼パーティーでDJをやってくれたのね。
M : 聞いた、聞いた、福ちゃんから。今までで最高のパーティーだったって。
M’: そうなんですよ、もの凄かった。福ちゃんのDJも。そこでジョン・レノンの『ハウンド・ドッグ』のライブ・バージョンが流れて、いやー、ジョン・レノンはやっぱり正真正銘のロックンローラーですね。
M : みんな勘違いしちゃってる。ジョン・レノンはロックンローラーだよ。
M’: 『ハウンド・ドッグ』はプレスリー並みに凄かった!『イマジン』もいいけど、ぼくは『ハウンド・ドッグ』だ。
M : やっぱり、『ロックンロール』というアルバムの中で、『ジャスト・ビコーズ』やってるの凄くカッコいい!
M’: いやー、凄かった。爆音で聴く『ハウンド・ドッグ』!カミナリが落ちたみたいだった!『ジャキー・コーガン』の冒頭に流れたジョニー・キャッシュの歌もめちゃくちゃカッコよかったなぁ。
M : ウィリー・ネルソンの今度のアルバムもめちゃくちゃいい。生誕80周年記念アルバムね。
M’: ジョニー・キャッシュは死んだ?
M : 死んだ。ウィリーはハーモニカの有名プレーヤーのミッキー・ラファエロとも共演してて、『マッチ・ボックス』とか凄くいい。
M’: ウィリー・ネルソンとかジョニー・キャッシュはC&Wっていわれてるけど、『ウォーク・ザ・ライン』を見るかぎりでは、ジョニー・キャッシュはロックンローラーだよね。
M : 『クレイジー』という名曲はウィリー・ネルソンがつくったんだよ。
M’: そう。次、何、飲むかな?エート、あの海賊サワーって何?
店主 ラム酒のソーダ割りです。
M’: じゃ、それ。
その後、Mは代官山のギャラリーで開催中の『Tanaami Tee ×ßå100』展のオープニングパーティーに出席した話をした。
この2ヵ月で田名網さんは原宿Stussy、渋谷NANZUKAと展覧会が続き、3弾目が巡回展だが代官山GALLERY SPEAK FORで開催。この時期、香港のアートフェアーにも出展している。作品集も『glamour』を発表。
Mは代官山のオープニングパーティーを訪ね、田名網さんに会い、「〈キラー・ジョーズ〉の話でもりあがっちゃってね。今度、森永君とぼくと一緒に飲みたいっていってたよ」。
大井町横丁の夜は、ビル・エヴァンスとプログレッシブ店主と海賊サワーで酔いを深めていく。今夜のGITANESがやけにうまい。
もう一軒、フレディー・キングのポスターを見つけ屋根裏のようなバーに潜り込んだ。狭く急な階段をあがると、そこは、ウワーオ!
一瞬で、40年、50年、時間は逆戻りした。そこには“今”が何ひとつない。
マスターひとりカウンターの中にいる。
ビデオ・モニターがあり、その手前に、DVDケースが重ねてある。マスターの趣味でブルース物があるという。
「じゃ、ブルース、おねがいします」(M)
MUDDY WATERSが流れた。
「やばい」(M)
「バーボン・ストリートにいるみたいだね」(M’)
窓際に座り、開け放たれた窓から下を見ると、複雑に絡み合った電線の下に路地がつづく。ほとんどの町はいま再開発計画で横丁ワールドが消滅の憂き目にあっているか、残っていても希少価値分の値段をとられるか、なかなか腰も気持ちも落ち着けにくいご時世だが、ここ大井町の横丁はしっかり根をはってしまって動かしようのない歴史さえ感じる。
DVDはAMERICAN FOLK-BLUES FESTIVALに変わり、ソニー・ボーイ・ウィリアムソンがハーモニカを吹いていた。