森永博志のオフィシャルサイト

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クラブシャングリラ6

TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 20
2013/11/7収録
@ はるみ(芝浦)

今月のクラシャン・トークの店は、自分には近所で、最近は週一で通っている芝浦高浜橋の〈はるみ〉。クラシャン・トークでは2度目だ。Mとの約束の時間は午後7時。

その前、友人の文房具屋のカンちゃんと田町でお茶してて、彼からデュポン特製・非売品のゴージャスなノートを2冊もらった。うち1冊はカール・ラガーフェルドとデュポンのコラボ制作。中に数点、カールの絵が印刷されていた。それを見て絵を描きたくなったので、コレは自分用、もう1冊はクラシック版、それをMに進呈しようと思って持って行った。

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午後7時、ジャストにMは現われ、すぐにホルモン、ハラミ、豚足、センマイなどを注文した。

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森永(以下 M’) : 先日、この機会をのがしたら、もう劇場で『ELVIS ON STAGE』を見れないだろうと思って、〈シネマシティー〉に見に行ったんです。

立川(以下M) : 度肝抜かれたでしょ。

M’: エルヴィス像がくつがえされた。

M : だってさ、『明日に架ける橋』なんてゴスペルだったろ。

M’: ミックは公開時に見てるでしょ?

M : 見てるよ。それも試写室で見たよ。

M’: 公開されたの71年とかでしょ。その頃、もう試写室に行ってたの?

M : 行ってた。もうぼくは映画評を仕事で『平凡パンチ』や『週刊プレイボーイ』に書いてたからね。

M’: 早いね。

M : その試写室っていうのが面白いんだ。マガジンハウスの近くにフィルムビ ルっていうのがあったのね。そこ、20世紀フォックスとかMGMとか外資系 の映画会社が全部入っててね。

M’: 面白そうだね。

M : そこに行くと必ず淀川先生や双葉十三郎サンたちがいたのね。映画関係者しかいないんだよ。それもね、いまみたいに映画評論家なんて数いないし、ましてライターもいなくて、試写なんて十人未満で見るわけ。

M’: じゃ、ミックが最年少?

M : そうだった。

M’: で、『ELVIS ON STAGE』見て、どう思ったの?

M : つまんないって思った。

M’: あの頃じゃ、ぼくらはそうだったよね。

M : だから、何これ?ちゃらけたカッコして、いま頃、何やってんのって、正直思ったよ。まったくノーマークだった。自分のエルヴィスは兵隊に行ったときに終わった。

M’: あー、西ドイツに行ったとき。

M : で、戻ってきて歌謡映画みたいのにいっぱいでてる頃は、もうぜんぜん嫌 いだった。だから3年間ぐらいだけですよ、ぼくが好きだったのは。54年から57年ぐらいだね。ラスベガスなんて、バカヤローだよ、ぼくからすれば。 でも、今回見て、エルヴィスをなんでみんな凄いって言ってるかわかった。今回のは原題が『That’s the way it is』っていうスペシャル・エディションなんだよ。

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M’: 『ELVIS ON STAGE』と、どうちがうの?

M : リハーサル・シーンが長いの。

M’: 何が凄いかって、あの頃、まだ黒人差別がある時代に、ラスベガスっていう白人のエンタテイメントの殿堂のステージに、黒人の女性シンガーを4人もコーラスで立たせたってことですよ。

M : あれは凄い!

M’: まだタブーですよ、きっと。ラスベガスじゃ。

M : だってエルヴィスは自分が住んでた街に、線路を渡ると黒人たちの居住地があって、子供の頃には越境してもうゴスペルやブルーズを聴いてたんだよ。 あのロカビリーの時のアクションも完全に黒人のいかがわしい動きだよ。腰ふりは。

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M’: それとアレかな。見て、一番感動したのは、エルヴィスがファンの女性にキスするとこと、フロアーに降りていってファンとハグするシーン。そういう 行為をあの頃はバカにしてたけど、いま考えてみると、あんな大胆なことをしたスーパースターは他にはいないですよ。

M : いない!

M’: だって、普通はファンが手が届かない“雲の上の人”がスーパースターなのに、ファンとキスしちゃうんですよ。それって、キリストとかブッタと同じでしょ。神は民衆の中に生きる。その感じ。

M : そっれはまたマッケンらしい見方だね。あのね、京都ホテルで湯川(れい子)さんをゲストに招いて『ELVIS ON STAGE』のフィルム・ディナーショーをやったとき、湯川さんが上手いこと言うなと思ったことがあってね。

M’: なんて言ってたの?

M : アーティストっていう言葉はあるけど、エルヴィスはシンガーなのよ、シンガーといえる唯一の人だと。つまりオリジナルもあるけどカバーが凄いよね。

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M’: そうですね。イタリアの古い曲だったり。

M : 『サレンダー』とかってカンツォーネだからね。

M' :『明日に架ける橋』はサイモン&ガーファンクルだし。

M : 『明日に架ける橋』をあんなにゴスペルっぽく歌ったのはエルヴィスが最初だよ。

M’: だけど、ミックは『ELVIS ON STAGE』を上映して、ぼくはエルヴィスのカウボーイの写真を使って自分の本の表紙にして、やっぱりエルヴィスはあるな。やってみたくさせるものが。

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M : だから長く生きてると、そういうことはいいね。

M’: でもアーティスト側の代表って言ったらジョン・レノンでしょ。それでこの間、71年頃に『ローリングストーン』のヤン・ウエナーがジョンにインタビューしたのを一冊にした本があって読んだのね。『回想するジョン・レノン』っていう。アーティストはものすごく苦悩してますね。何もかも信じられなくなってるんです。ヨーコだけが信じられるって。ものすごくネガティブたったな。

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M : ジョンは変わり者だよ。ものすごく屈折してる。だからああいう歌が書けたんだよ。で、ポールは逆に思い切りぬけちゃってる。

M’: ポールの公演、行きます?

M : 行かないよ。

M’: ビートルズがよかったのは最初の 2、3 年ってジョンは言ってた。最近、そのころのBBCのスタジオ・ライブのアルバムが出たけど。

M : だから、ブライアン・エプスタインが死ぬ1年前までじゃないの。しかし、ここのホルモンは旨いね!2人前、追加しよう!

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M’: こんなホルモン、他じゃ、絶対食べられないですよ。

M : 門上(武司)さん、わざわざ大阪から食べに来て、夢中になってたもんな。ママに「大阪だったら、美味しいホルモン、いくらでもあるでしょ」って 言われて、「こんなキレイなホルモンはないでー」って絶賛してた。

M’: また沖縄行ってて、公設市場の中に〈ウララ書房〉っていう世界一ちっちゃいっていうような古本屋があるんです。

M : 牧志の?

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M’: そう。そこもこの店と同じ。女性ひとりでやってて、品揃えは抜群。この間は、金子光晴が大リスペクトしている沖縄出身の山之口貘っていう詩人の本、2冊買ったんです。これが美しい箱入りで、コレクションものなんです。それで、文章もシンプルで、でも感覚がずば抜けてる。怖いくらいです。

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それと、こんな本あったのかっていう、アナーキストの大杉栄の『日本脱出記』っていう密航記。上海、パリ、マルセイユに密航するんです。1922年です。あの時代の日本人たちは、めちゃくちゃですね。

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M : だからさ、この前、京都伊勢丹の中にある美術館で、藤田嗣治の30年代のパリの展覧会やってたんで見に行ったのね。それが駅ビルの美術館とは思えないほど立派な展示で、内容が濃いんだよ。当時の交友まで展示されてて、やっぱり毎日遊んでるんだよ。

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M’: ジャン・コクトーたちと?

M : そう。それで昼は絵を描いてて、夜は女を毎晩渡り歩くんだよ。たとえば、先週はマッケンのオンナだったけど、今週は俺だ、みたいに。

M’: 大杉栄もそんなところあったね。それで、パリの警察に捕まるんだけど、中でずっとワイン飲んでるの。でも、ジョン・レノンのインタビューで面白かったのはアート観。

M : なんて言ってるの?

M’: やっぱり一番好きなのはマルセル・デュシャンだって

M : あー、そう。ジョンがちいさい頃に描いてた絵が偶然、ジャリみたいなんだよ。

M’: ダリじゃなくて、ジャリね。ジョンはダリも好きだけど、ダリはミック・ ジャガーみたいなもんだって言ってた。

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M : わかる、わかる。すごくわかる。ハラミもください!

M’: 昨日午前中、六本木ヒルズの映画館にスティーブ・ジョブズの映画を見に行ったのね。

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M : どうだった?

M’: 面白かった。

M : 見る気しなくてね。

M’: ジョブズがまだ学生の頃、起業の決意をする瞬間があってね、家の中では みんなマリファナ・パーティーをしてるんだけど、ジョブズはひとり車の中にいて、そこに流れるのが『朝日のあたる家』ですよ。それでエンドロール見てたら、バーズになっていて、バーズの『朝日のあたる家』なんてあった?

M : バーズはないだろ。

M’: やっぱ、アニマルズか。他にドラマチックなシーンには、ディランとかキャット・スティーブンスとか、けっこう音楽が効いてた。

M : インターネット系の奴等は、そういうタイプが多いね。最近、ジミ・ヘンの新しいアルバムでたね。

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M’: 未発表音源?

M : そう。マイアミ・ポップ・フェスティバルの。1968年だよ。

M’: じゃぁ、エクスペリエンスのときのだ?

M : そう。『ヘイ・ジョー』からはじまって、めちゃカッコいい!

M' : ジョブズの映画は、80 年代、もうロックがスピリットをなくした時代に、ジョブズたちがそのスピリットを持ってたという感じなの。

M : 80 年代は、ロックはMTVでダメになったからね。

M’: アップルの創業の頃は、メンバーにアウトロー・バイカーみたなのもい て、ガレージ・バンドみたいなんですよ。80 年代はグランジが出てくるまでロ ックは不毛だったと思うな。でも、アップルがロックしてたんですよ。映画見 る限りでは、そんな感じだった。

M : あと、あれが凄かったな。ソフィア・コッポラの新作。知ってた?

M’: 知らない。

M : 『ブリングリング』っていう。それ実話なんだよ。いわゆるウェストコーストのビヴァリーヒルズあたりのハイスクールの奴等が主役でね。タイトルは「キラキラしてる」っていう意味らしいんだ。ハリウッドのセレブっていまみ んなフェイスブックやってるだろ。たとえば、パリス・ヒルトンがフェイスブックに「わたし、来週パリに行くの」って、書くじゃない。そうすると家を留守にしてるってわかるから、高校生たちが泥棒に入ってブランド品をごっそり盗んで売っちゃうんだよ。

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M’: それ、実話?

M : 実話。で、捕まると、「わたしにとってスピリチュアルな体験だった」って、盗みを正当化するのね。それで、一躍高校生がスターになっちゃうんだよ。で、凄いのは、SEXもバイオレンスもでてこないのに、R15の指定なんだよ。

M’: なんでですか?

M : たぶん、高校生たちがコカイン漬けになって泥棒するからだと思うんだ。 それがひっかかったんじゃないかな。

M’: 最近のアメリカ映画はまたコカインが復活してる。あれはひどかったな。『フライト』。あれのがやばいんじゃないの。また、ニューヨークでコカインがブームなんですよ。

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M : すいませーん。ホルモン2人前、追加してください。あと、ナムルも。ナムルも旨いんだよな。

M’: キムチも。

M : チャンジャもたのもう。

M’: あと、あれも面白かったな。韓国映画の『悪いやつら』。プサン舞台にし たヤクザ映画でね。笑っちゃうのは日本のヤクザの親分役が中島さんなんですよ。

M : 中島さんって?

M’: 前、丸の内の〈来夢来人〉で紹介したじゃないですか。際コーポレーションの中島さん。レストラン王の。

M : 秘書が綺麗だったね。

M’: あの人、昔からロールスロイス乗っててね。『悪いやつら』って悪人しか 出てこない映画なんですよ。

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それに平気で出てる。笑っちゃいますね。でも最近、マフィアもので本当に凄いと思ったのは、DVDで見たんだけど、クローネンバーグの『イースタン・プロミス』ですね!

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M : あれは最高!あれは凄いでしょ!でもぜんぜん当らなかった。

M’: ロンドン舞台にしたロシアン・マフィアものでね、深いですよ。主演の男 優がめちゃくちゃいい。

M : ヴィゴ・モーテンセンだろ。

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M’: そう。チェット・ベイカーに似てるの。

M : あいつ凄いよ。あいつが出てる映画ってすべていい。クローネンバーグの によく出ててね。『ヒストリー・オブ・バイオレンス』もよかった。バイオレンスものをやらせたら独壇場ですよ。でも、クローネンバーグは日本じゃ人気ないんだよ。

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M’: 公開時にはこけても、その後、ビデオで火が付いたってあるじゃないですか。『ブレードランナー』みたいに。今はそういうことはない?

M : 『イースタン・プロミス』は、その存在さえも知られてないと思うよ。

M’: さみしい話しですね。

M : 話し変わるけどさ、昨日テレビにXXのXXXさんが出ていて、インターネットで薬を買うのが一番安全だって言ってたけど、顔がめちゃくちゃダメになってた。人格って顔にでるなって思ったね。

女将 :でます!顔にすごくでます。

M : 京都とかに行って遊んでてても、たとえば祇園のバーのおばちゃんが、帰るときに、「わたしとキスして帰りなさいよ」って言うのは、それはおばちゃんが客を見抜くんだよね。客商売何十年やっててわかるんだよ。

女将 :そういうのってわかります。絶対、顔にでます。

M : 店の人は怖いよ。

M’: 人の見方が厳しいよ。

M : みんな見てるんだから、本当に。はっきりとは言わないけど。こうして話してて、ママが「そうよ」って言ったときごーんとくる瞬間があってね、それが怖い。

M’: 全部見られてるっていうのは、この店でもわかる。

女将 :店じゃないにしても、人間って顔にでます。同じ人でも、今やってることによって、いい風に顔が変わる人もいれば、悪い風に変わる人もいます。あっ、この人、こんな顔じゃなかったのに、こんなにいい顔になったとか。前はよかったのに、こんな風になっちゃったとか。形じゃないんです。人のすべてが顔にでるんです。

M’: この間、ここで逢川(敏。もと東京レターメンのヴォーカリスト)さんたちと飲んだとき、逢川さんものすごくいい顔してたな。完全に福顔で、惚れ惚れするような。

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女将 :そうそう、あのときは。

M’: でも、普段はちがうでしょ?

女将 :かまえちゃうとダメなのね。人の顔には内面がでます。変になっちゃう人のほうが多いんですね。

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M : いい話だね。

M’: こういう話になるとは。

M : 年輪とかっていうのは、そういうことなんだよ。

女将 :女の人は年をとってもそんなに変わらないけど、男の人はすごく変わり ます。

M : すごくよくなる人がいる。若いときは、そのへんの女ったらし系だったんだけど、年とって微妙に仕草に表情が出てきたりね。

女将 :その仕草って、女の人にはないんですよ。

M : 男じゃなきゃ、こうはならないみたいな。

女将 :言葉で言うのは、ちょっとむずかしいけど。

M : やっぱり物腰なんだよ。ロックンロールも、そう。物腰だよ。

M’: それがジョン・レノンにはないんだよ。

M : ジョンは生きてたら悲惨になってたかもしれない・・・そう思いたくはないけど。

女将 :あの人は、あのとき悲劇だったけど、撃たれてなくなってよかったのかもしれませんね。

M : エルヴィスもそうですよ。生きてたらやばいと思う。エルヴィス、ジャニ ス・ジョプリン、ジミ・ヘン、ジョン・レノンって、生きてたらやばいですよ。

女将 :あの状態で、ずっといくわけないですからね。

M’: ボブ・ディランは別格ですね。

M : ディランは凄いよ。別格です。やっぱり知性だね。ディランはこれからも 生きるだろうし。ルー・リードはこの前、死んだけど、71 歳でしょ。やっぱり知性なんですよ。レナード・コーエンもまだ生きてるじゃん。知性のある人は だいたい長生きする。60代前半だったけど、伊丹さんも知性あったもん。

M’: ぼくらももう 60 代半ばになるんですけど、長生きしてると思うね。ぼくら、知り合って、もう40何年かな?45年?

M : 44年。一度も喧嘩したことない。

女将 :わかりますよ。おふたりみたいな間柄だったら、そうはなりませんね。おたがい語り合える関係だと。もしかして、年同じかも、わたしと。

M’: ぼくらは、立川さんが昭和24年、ぼくか25年。

女将 :わたしは24年です。

M : 何月?

女将 :4月。

M : じゃ、飲もう。

女将 :なにか話し聞いてて、通じるものがある。話がわかる。世代が一緒だからですね。

M’: 同世代。でも、前は夜、街に出かけて行けば、あちこちに同世代の人たち がいっぱいいたんだけど、今は何処へ行ってもいない。

M : いやなのは、遊びに行けばいいのに、みんな行かないんだよ。打たれ弱くなってるね。なにか一回でも失敗すると、すごく自分が重大な過ちをおかしたんだと思う人が多いね。ぼくなんか、ぜんぜんない。『COME RAIN COME SHINE』って、「雨が降っても晴れても」ていう有名な曲があるんだけど、そんなもんでさ。

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いつもはせまい店は客でいっぱいで、女将は応対に追われて、そんな夜みたいにぼくらとじっくり話す余裕なんてないが、他に客もいず、テープを止めた後も話が弾んだ。

絶品ホルモンの感興に勢いづいた感はあるものの、やはり同世代 3 人の 60 数年の人生の来しかたに同じような道を感じあい、+女将のクラシャン・トー クになったのだろう。

顔の話を聞いたので、手に入れたノートに詩集で見た詩人・山之口さんの顔を描いてみた。

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「ぼくらは何かになりたいなんて一度も思ったことがない」M+M'