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TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 22
2014年1月14日収録
@早雲閣(箱根)
ある女流作家が言った言葉がある。「創作に工夫をしない人を軽蔑する」、そんなようなことだ。それは真の創作者の業のありようを語っている。
ここで言う「工夫」は決して国家や企業がその存続を賭けて開発するような文明のことではない。個人が日々の暮らしのなかで、常識と思い込んでいる諸々の茶飯事に対し「?」と思案し、結果「こうしてみたら、どうだろう?」といった次元の「工夫」である。
食べ物ひとつ、それにこだわる人間は、あらゆることに独自のやり方を貫くことができる。
2014年1月のクラシャンは箱根の〈早雲閣〉で新春座談会となった。
旅館の主人のマッチャンこと松坂さんはクラシャンの朋友であり、他に晩餐会の出席者はマッチャン夫人の女将さん、イラストレーターの早乙女君とフリー・エディターの星野君と後輩ふたりいずれもマッチャン言うところの「肩ひじはらなくてすむ」面子。もあって、〈早雲閣〉自慢の料理を味わいながら、Mの長老挌を思わせる美食観にみんな敬服する一夜となった。子細なことのなかにこそ世にはびこる風潮を突く批評眼が冴える。
では、美酒、美食に陶酔した至福の箱根山中でのクラシャン・スペシャル、かますとこはかましまっせ!
コース料理を食べながら
M : ぼくも年とって、来週65になるのね。で、いつもマッケンと話してるけど、ぼくら普通の人に比べたらめちゃくちゃ外食率高いわけ。そこで一食一食が、これからますます意味あるというかね。別に高ければいいなんていう話じゃなくて。
松坂 :普通の人の五倍ぐらいは外で食べてるもんね、立川さんは。
M : それでね、食べることでもね、自分が生きてるうちにホントに仲のいい人たちだけに、ぼくが知ってることを教えていきたいとおもうのね。たとえばこの烏賊と鯛のお造りも、山葵醤油で食べるより梅肉のほうが絶対おいしい。ちょっと、梅たたいて、梅肉持ってきて。
(梅肉がきて。お造りを試食し)
全員 : うまい!
M : 味がたつでしょ。これで完璧ですよ。
M’: すごい上品。
M : シャンパンとぜんぜん合う。でもいい鯛じゃなきゃだめなんです。
女将 :このあいだ伊勢に行ったら、舟盛りの鯛がでてきたんですけど。
M : そんなの焼いちゃった方がいいよ。
星野 :〈賛否両論〉っていう和食屋があって、そこいま人気なんだけど、白身魚のお造りに醤油はださない。山葵塩しかださない。若い料理人の店で。
松坂 :けっこういま人気だね。
M : いいものをだそうとする料理人は醤油は使わないね。醤油って魔法なんです。安い肉でも醤油を使って焼いたり、炒めたりしたら、けっこううまくなる。でも、このくらいの刺身なら塩や梅肉とか、いま星野君が言った山葵塩とかね。あと紫蘇味のドレッシングでも烏賊はおいしいかもね。そのへんちょっと工夫して食べてみたいとおもうんだ。やっぱ、こういうメンバーでいっしょに食べて、食べ物の話してるのが、これがエンタテイメントなのよ。
女将 :わたし、梅肉で食べるのは鱧だけかとおもってました。
M : ちがう。それ、京都でおぼえたんです。
女将 :ほんとにおいしい。鯛の味がする。いままで醤油味にごまかされていたんですね。
M’: もう、頭で刺身は醤油と山葵で食べるもんだっておもいこんでいた。
M : 京都ではいい店行くと、平目も梅肉ですよ。
M’: 醤油のよさもあるんだろうけど、これは絶対梅肉のがうまいね。
M : いろいろマッケンともシャングリラで食べ歩いておもうけど、いまや料理って複製できない数少ないもののひとつなんですよ。音楽や映画ってCDとかDVDで複製できる。それをコピーして、人にあげることもできるけど、料理はコピーできない。誰かから「あそこうまかった」って聞いて食べたいとおもったら、そこに足運ぶしかない!
M’: 食べに行くしかない!
M : だけど音楽はいまはWOWOWなんて、ものすごいライブを一本50円ぐらいで観れちゃうじゃない。コンサート会場に行かなくても、充分行った気分になれてね。
M’: だってね、いま会場の警備とかルールとか異常に厳しくてね、ぜんぜん自由じゃない。それおもうと行きたくない。それに終演と同時に観客が最寄りの駅にいっせいに走っていくあの光景見ると、どっちらけ。
早乙女 :あれ、やですね。
M’: 余韻が一番大事なのに、何もない。
星野 :何番から何番の人たちは立って何番出口に向かってくださいって。
M’: まだ、ライブハウスはいいけど、大きな会場はバカみたい。
女将 :そうなんですか?
M’: ひどいです。
M : だから、ぼくはいまホテルとか旅館の仕事が好きなのは、まだ自由があるし、いろんな可能性がある。CDを制作しても、いったいだれが買ってんのか見えない。
M’: 前とちがってレコーディングの現場もおもしろくないだろうしね。料理の話しにもどると、ほとんどすべての商品は売れなかったら、それこそ90パーセントもディスカウントするけど、店でだす料理は売れ残ったからってね。それないもんね。そこが凄い!
M : たとえばね、料理は店に人気がでたら、値段を一割あげても成り立つビジネスだけど、CDはできない。もう価格が決まっていて、どんなにいいもの作っても価格に反映されない。
M’: 本は値段、ばらばらだもんね。
星野 :CDはものすごくレベル的に下がったものでも値段同じですから。
M’: 前からおもってたんだけど、あのタクシーの初乗り710円っていうのも解せない。だいたいお釣り面倒だよ。
早乙女 :500円にすれば、みんなもっと乗るとおもうんだけど。
M’: 乗る乗る。沖縄、500円だよ。いまタクシー、ガラガラなんだから、あれこそ安くした方がいい。
松坂 :710円じゃなくて700円にした方がいいよね。
M’: 料理は最後の砦かな。
松坂 :でも立川さんみたいに、わかる人はいいけど、みんなわからないからね。
M : この前の食品偽装の話で言うとね、じゃ、食べてたときに、「お前、芝海老って言ってたけど、これ、バナメイ海老だろ」って言った人には金返していいよ。「いやぁ、おいしいです」って言って食べてた人が偽装が発覚してから、「金返せ」はないだろ。それこの間、ホテルの人に言ったら、「それホントに誰かが言ってくれたら」って、涙流してた。文句言ってきた人に、目の前に芝海老とバナナ海老の料理並べて食べさせて、正解だったら金返してあげてもいいよ。でも絶対わからない。バナメイ海老のがおいしいっていう人のが多いかも知れない。
松坂 :ちっちゃい海老は中華では全部芝海老って言うんだって言っちゃった料理人もいた。
M’: ところで、ミック、梅肉はいつ食べたの?
M : 小学校のころかな?
全員 : エーッ!
M’: やっぱ!
女将 :立川さん、凄いですね! 生まれながらにして食も住む世界が違ってたんですね!
M’: それで子供のころ食べておいしいとおもった?
M : おもった。
M’: それが凄い! ミックの原点だな。その味覚がすべての美意識の元にあるね。
M : うちが商売やってたからね。おじいちゃんがよく京都に連れてってくれてね。それで子供のころにスッポンの生き血、リンゴ・ジュースで割って飲んでた。
全員: ヘエーッ!
女将 :それ、パワーありあまり!
M’: ミックは中華も子供のころから内臓系食べてたしね。台湾料理もね、かなりのメニュー食べてたんだもんね。新宿に、行きつけの店、あったよね。
M : 〈山珍居〉ね。そこ、うちの親父が戦後オープンした先代と懇意にしててね。そこの火鍋は凄くおいしい。
女将 :東京で焼肉店のおいしいとこたくさんありそうですけど、何処が一番?
M : それは正肉系がいいのか、内臓系がいいのかで、ぜんぜんちがう。それから焼肉だけ食べたいのか、韓国料理も食べたいのかでもちがう。いまは割烹だと〈草思庵〉がいい。
女将 :何処?
M : 西麻布。そこはいま予約がとれないほどの人気なのね。チャンジャ盛り合わせとか。あとアボガド・チャンジャなんかあって。そこは焼物は焼いてきてくれるんです。
女将 :ホルモンが好きなんです。
M : だったら芝浦の〈はるみ〉だね。
M’: そこ一回行ったら地獄におちる!
M : グルメの墓場です。ぼくははじめてマッケンに連れて行かれて、ホルモン食べて驚愕した。うちの増田も、そこで食べて泣いてたね。あまりのうまさに。ホルモンとハラミしかない。
M’: それまで体に記憶していたグルメ感、吹き飛ぶ!
星野 :グルメの極北だ、極北!
M’: でも、ホントにママの風情とか含めて、かなりレベル高い。
女将 :イヤー、余計行きたい。ビールは?
M : 酒はある。この間はマッケンがシャンパン持ち込んでね。ピンクのモエ。あそこは、けっこう赤持ってったらうまいな。ママがかわいい。マッケン、気にいられててさ。
早乙女 :マッケンさんちみたくなってる。
M’: このクラシャンが最終的に到達した店です。
M : あと焼肉じゃないけど、大阪の〈美加佐〉も凄いよな、マッケン。萬割烹って言ってるんだけど、ようは密猟屋ね。
女将 :密猟屋!(笑)
M’: イノシシとか、鹿。
M : で、そこにマッケン連れてったんだよ。こいつ、うまいと凄い勢いで食うんだよ。
M’: 馬のたてがみのとこね。
M : 料理が追いつかないんだよ。で、主人が「あんた、食うの早いな」って言ったら、「セックスよりいい」ってマッケンが言って、そしたら「あんた、どんなセックスしてるんや」って突っ込まれてさ。
全員 : 爆笑!
M : 高円宮も連れてった。
M’: 〈美加佐〉の旦那は怪人ですね。いまも仕事中に大酒飲んでる?
M : 飲んでる。横で奥さんに「あんた、いい加減にしとき」って叱られても「うるせー、馬鹿野郎!」って飲んでる。
M’: あそこは一見はダメでしょう?
M : ぜんぜんダメ。でもたまに間違っていれちゃうときがあってね。一番おかしかったのは、なんでこんな客いれたのかな、やな奴ばかりだなっておもってたらさ、まだ一品しか食べてないのに、主人がいきなり手に包丁持って「あんた! 一万円おいて帰り!」って脅して、客、帰った。で、「暴力割烹じゃない」って言ったら「あんなもんええんや」って。来る奴、ほとんどプロ。店やってる奴とか沖仲士とか、幼稚園の会長とか。
M' :音楽業界の人ってグルメいる?
M : 音楽業界の人で多分〈はるみ〉行った人はいないでしょ。でも有名店で高いワイン飲んだとか、予約できない店を自分だったら予約できるとか競いあってる人はいるだろうね。もしかしたら芝海老もバナメイ海老も区別がつかないかもしれない。
松坂 :もしかしなくてもつかないよ、それ。
M’: けっこう食べ物どうでもいいタイプ多いね。音楽に限らず、業界は。
M : ああいう人たちは基本的にトンカツとか好きだもん。
M’: 田名網(敬一)さんはやっぱりグルメだな、むかしから。食べ物どうでもいいっていう人、認めてない。
M : 田名網さんはわかってるよ。やっぱりにわか味はダメなんですよ評論家でも、××××がダメだとおもうのは、フランス料理極めるためにフランスで一ヶ月人間フォアグラになるぐらい食べてたって雑誌で発言してたのね。でも、そんな恥ずかしいことはないよ。それから天ぷらを極めたくて月に20回天ぷらを食べたとか。
M’: それ、病気だよ。
M : 天ぷら、月に20回も食ってたら、もう油で味覚がおかしくなってるよ。そんな恥ずかしいことを平気で自慢して料理評論家を自称してる人はまちがってる。
M’: まったく、よくその程度で先生になっちゃったね。
M : まだ〈マキシム〉が最高だと言われる若いころに「〈マキシム〉からガード下の焼き鳥屋まで、ぜんぶわからないかぎり食べ物の話しなんかしちゃダメだよ」って誰かに言われたことがあってね。それ、凄く正しいとおもう。
M’: ぼくも古波蔵(保好)さんにかわいがられてたから、〈マキシム〉も「ちゃんと正装してきなさい」って連れてってくれたし、ほかにも一流といわれてる店にはぜんぶ連れてってくれた。「知ってた方がいいだろう」って。でも若いときはそのクラスの店になると、連れてってくれる人がいないと行けない。先生って言うんじゃないけど。
M :そういう人がかならずいたわけじゃない? 教えてくれる人が。それはおじいちゃんでもいいし、誰でもいい。教えてもらわないかぎりわかんない。
M’: 音楽や映画は直感的に若くてもわかるけど、食べ物はちがう。そこには価格もあるし。
M : それにマッケンがいみじくもいま言ったけど、田名網さんも古波蔵さんも基本、道楽者だよ。
松坂 :食べ物に関しては、ちょっと危な気そうな人じゃないとわからないよ。だって××××なんてぜんぜん危なくないもん。
M : それで商売したらダメでしょ。
松坂 :それで仕事するから結局提灯記事書かなきゃいけなくなる。
星野 :新館はいつオープンするんですか?
松坂 :七月かな。
女将 :部屋の設計をいま書き直してもらってるんです。ホントは年末から工事に入る予定だったんですけど、遅らせたんです。
星野 :何処が気に入らなかったんですか?
女将 :露天風呂まわり。
松坂 :露天風呂を広くしろ、と。あと露天風呂の位置が気にいらない。
女将 :そしたら作業がすごく遅れてしまった。設計をやり直したんです。それで一ヶ月、二ヶ月、ずれこんだんです。
星野 :でも急いでやってあとで悔いを残すこと考えたら。
松坂 :オープンを多少おくらせても屁でもない! (マッチャンのこの発言を聞いて、〈美加佐〉の旦那の仕事ぶりに見た仕事師魂に共通する姿勢を感じ、ゾクっとした)
M : 断る勇気って実は商売になる!
松坂 :なる!
M : ぼくは若いときなんか、事故処理班が事務所にいたのね。
女将 :事故処理班?!
M : 仕事してて、途中で「俺、帰る!」って、ロケの途中で帰ったこともあった。あとレコーディング中に「俺、やめるわ」って帰ったこともあった。そうするとすぐ事務所の事故処理班が出動する。けっけう仕事の契約のとき金もらってるケースあるじゃない? 「金返せ!」って言われたって、もう使っちゃってたりするから、その言い訳と金策。(飛騨肉を焼いて食べている)でも、このぐらいの肉だと、何かもろ味噌みたいので食いたいね。
星野 :いいこと言った! もろ味噌、いい。
M : 外で食うときって、いろんなことして食いたいじゃん。ようは外でごはんを食べるというのはもうエンタテインメントなんだよ。こんなふうに仲間で旅館に遊びにきたとき、ちょっとこんなふうにして食べてみたいねって言ったら、それに旅館が対応できたらめちゃくちゃいい。
松坂 :ようするにいま話してるように、旅館は何でも一種類にもっていこうとする歴史だったんだよ。それをいま国は開け、開け、イスラム食を旅館でやれって、訳のわかんねえこと言ってるけど、そんなのすごいインチキだよ。
M’: そんなのマーケッティングだもんね。
松坂 :だからいま両極端ばっかりなんだよ。立川さんが言ってる諸々が大事なんで。
M : 食べるときに何か他に欲しいなってあるわけじゃない。たとえばさ肉のあとは筍御飯だったりするけど、赤紫蘇御飯とかね意外に美味しい。口の中、サッパリしてね。そこ神戸のステーキ屋なんだけど、紫蘇の使い方うまくてね。前菜も、トマトの中くりぬいて、その中に紫蘇の千切りを胡麻でもんだのが詰めてあってね。それも思い切り冷えたのを解凍したみたいになってて。それが前菜なの。肉の前後ってすごく重要だと思う。肉は自分で焼くよりプロが焼いた方がおいしいかもしれない。
M’: やっぱり調味料になると、プロの領域なんだね。
M : 調味料って海外のいい店ってすごくこってるの。でも、あれは元の素材が弱いから調味料でリカバーしてるだけで、このグレードのネタだったら、絵の具でいうと24色はいらない。12ペンテルぐらいで楽勝ですよ。天ぷらだって、塩だけじゃない。でも筍の天ぷらは塩だね。〈がらり〉っていう塩がいっぱい揃ってる居酒屋があるの。そこはネタはここの鯛の三分の一ぐらいのクオリティーなんだけど、塩で騙されて食べちゃうの。あと旅館の場合、コースでだすけど、順序をどうするか考えた方がいい場合がある。たとえば、あのぐらいのクオリティーの飛騨牛だったら、三切れのうち一切れは、二日ぐらい味噌漬けにして薄切りにして出したらどうなるか? チャレンジしてもおかしくない。それでマッケンみたいな客はそれ食べて、「御飯も食べたい」って言うからね。
女将 :なるほど。朴葉味噌焼き出すと、かならずお客さんは御飯くださいっておっしゃいます。
M : だからコース料理は曲目リストと同じなんだよ。
M’: コンサートみたいなもんだ!
商いにおける真っ当すぎるくらい真っ当なスピリットを貫く〈早雲閣〉にて、美酒、美食、歓談にとことん酔った会食のあと、山の精気に満ちた月下の露天風呂にみんなで浸かり、早乙女君の部屋で二次会となった。
二日前に早乙女君が偶然YouTubeで見つけたというスタン・ゲッツ&チェット・ベイカーのコペンハーゲン公演をiPadミニで見た。ふたりの存在が、クラシャンのぼくらに重なると早乙女君は言う。
「これでいんだって開き直ったらおしまいですよ。やっぱり葛藤してる奴がカッコいいですよ」
最後、早乙女プレゼンツの素晴らしい音楽に酔ったディープな一夜が明け、朝、目を覚ますと、朝日を浴びた布団の中から見上げた天井板の木目模様に目を奪われた。
はっ、こういうことか! その生涯を風流に生きた作家深沢七郎は度々、京都に足を運び寺を回っていた。そこで何を見ていたかというと、仏像ではなく廊下や天井の板の木目を鑑賞していた。
そこには屋久島から切り出したような縄文杉の何千年、何百年の時間の歩みが木目となって記されている。
そこには超越的な貌がある。真に見るに値する貌がある。
それはまた広大久遠の宇宙へと魂を導くサーフ・ボードにも想える。
マッチャンに「何処の木ですか?」と訊くと、「うちの親父が飛騨の人で銘木マニアなんだよ。セリに行っちゃ、銘木買って、それを床や天井に張ってるんだよ。杉は飛騨、神代けやきは秋田、山形だよ」と教えられ、感服した。
「木目、もの凄い!」
「木目凄いなんて言う客、はじめてだよ」
「いや、畳の目も細かくて凄い!」
「わかる?」
「素足であるけば、ビンビン感じる」
まさに全身全霊、六根清浄し、車で下界に降りて行った。途中、突貫工事で建設中のホテルもどきがいくつもあった。急に海原を見たくなって、ひとり東海道線で国府津に行き、自然の力で丸く削られ陸に敷き詰められた石の浜で昼寝をした。
昨夜の、幾つものMの言葉が蘇ってくる。それはやはり女流作家が語った創作の原点に触れていたのだった。
国府津の街道
国府津の街道