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TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 30
2014年10月21日収録
@金春(蒲田)
TACHIKAWA“MICK”NAOKI
&
MORINAGA“MACKENZIE”HIROSHI’S
CLUB SHANGRILA 30
2014年10月21日収録
@金春(蒲田)
クラシャンでも度々話題にし、Mも行く気になっていた京急蒲田のアーケード商店街に、ついに出向いた。
待ち合わせは京急線・京急蒲田駅改札口、平日火曜日、時間は7時。
駅で合流し、駅前の再開発工事区の仮設通路を抜け、アーケード商店街に出ると、蒲田ならではの、どこかしら大陸のいなか町を想起させる光景が目の前にひろがる。目障りな「トレンディー」など寸分もない。
行く店は中古ビデオ屋と中国大連家庭料理屋〈金春〉、まずは腹ごしらえを先に、そのあとビデオを掘り出しに。
テーブル席につき、Mが菜譜をめくり、瞬時に料理を選ぶ。
ジャガイモの細切り和え物、豚耳、モヤシ炒め、
「ギョウザは、何がお勧め?」と聞かれ、
「海鼠は?」
「いいね。じゃ、海鼠の焼きギョウザにしよう」
注文する。
M’: 『ジャージー・ボーイズ』、めちゃくちゃ、よかったですね。
M : よかった。ぼくはさ、クリント・イーストウッドの監督作品って好きじゃなかったのね。
M’: ああ、社会派過ぎて?
M : そう。辛気臭いだろ。苦手だったんだ。でも、『ジャージー・ボーイズ』はよかったね。
M’: やっぱり、クリストファー・ウォーケンが最高でしたね。
M : 彼もさ、最近、シリアスな役がつづいてたからね。
M’: 現実の町を舞台にした不良少年たちのドラマ。
M : むかしはさ、フォーシーズンズはコーラス・グループだけど、バンドなんてあんな感じだったんだよ。それがすごくよくでてた。
M’: エンディングは全員街路で踊ってた。クリストファー・ウォーケンまで。『ウエスト・サイド・ストーリー』ですかね。
M : あの踊りは『ウエスト・サイド・ストーリー』だね。オマージュだね。
M’: ああいうの見ると、アメリカもけっこういまノスタルジックになってんのかな?って思える。ハリウッド映画も。
M : ノスタルジーじゃなくて、すべてにおいてちょっと行き過ぎたという反省があるんじゃないかな。
M’: 反動かな。フォーシーズンズはロックンロールの歴史のなかでは、重要な存在?
M : いや、ギリギリかな。
M’: それがいいんだろうな。この間、千葉で、キャノンボール・フェスっていう集会があって、それにバンドも出演して、メインはリーゼント、革ジャンのマックショウだったんですね。ぼくは行ったわけじゃないけど、マックショウのディレクターが後輩だったので、逐一メールで報告がきて。それ、なんか、すごい盛り上がりだったそうです。いまだに誕生のときから、そのスタイルがピュアに継続されてる音楽ってロックンロールだけですね。
M : ロックンロールは普遍的だよ。
M’: ルーツがハッキリしてるからかな? ソロならエルヴィス、バンドならビートルズ。いまも不滅でしょう。
M : 他に行きようがない。もう、あれの虜になっちゃったら。
M’: 仕事で、ロックンロールの歴史調べていたら、ビートルズは『サージェント・ペパーズ』に比べると、まだ無名時代のシルヴァー・ビートルズの評価が低すぎる。でも、あれがロックンロール・バンドの原点ですよ。ラモーンズも、そうだし。
M : ビートルズの歴史をひもといていくと、時折あの『バック・イン・USSR』や『アイ・アム・ザ・ウォルラス』みたいな野卑なエネルギーの炸裂を見るんだよ。
Mのこの発言を受けて、ぼくは先日読んだ、ジョン・レノンの発言を思い出した。それは、ジョンのロックンロール観を如実に語り、Mの語る「野卑なエネルギー」をも証していた。
ーーいまでも私はリトル・リチャードが好きです。それに、ジェリー・リー・ルイス。このようなひとたちは、原始時代の絵かきみたいです・・・。チャック・ベリーは、時代をこえた偉大な詩人のひとりです。ロック詩人、と呼んでいいでしょうね。彼は、歌詞の面では、非常に時代のさきをいってました。ディランも含めて、私たちはみな、チャック・ベリーには、多くのものを負っています。
以上、『回想するジョン・レノン』ジョン・レノン 片岡義男訳/草思社より。
M’: 実に不思議なバンドですよ。だってメンバーの四人は下層階級でしょ。で、マネジャーのブライアン・エプスタインは地方都市の家具屋の息子でしょ。しかもゲイ。プロデューサーのジョージ・マーチンも、あの気品から貴族階級かなと思っていたら、大工の息子ですよ。だから、全員、労働者階級出身。それで、力合わせて、全世界を制覇した。世が世なら、みんな一生浮かばれない。
M : あ、そう。ジョージ・マーチン、大工の倅? それ、笑えるね。
M’: それ、ハンター・デイヴィスの『ビートルズ』にでてた。あの本とアラン・ウィリアムズの『ビートルズ派手にやれ!』は名著ですね。不良少年たちの御伽みたいに、読める。それにイギリスっぽい。いまでも、『ビートルズ』は面白い。あの本が出たのは70年ころでしょ。その後、ジョンもジョージも他界したけど、あの時点ではわからないわけだから、いま読むと、謎めいたこともでてくる。
M : この前、たまたまCSのミュージックエアーっていう変なチャンネルがあって見てたら、ポール・マッカトニーは本当は死んでいたという映画やっててね。ジョエル・ギルバートっていう人が監督してるんだけど、ポールは1966年に交通事故で死んでいた。そのあと、ポールの代わりにフォールという奴が整形手術をしてメンバーになった。で、それが証拠に『サージェント・ペパーズ』のジャケットの福助の頭に指がはいっているのは、そのことを暗示してるんだと。それからあのジャケットのドラム、あれは墓石なんだと。全部、フェイクのドキュメンタリーなんだけど、見てるうちに、コレ、ホントなんじゃないかって思えてきちゃうんだよ。
M’: そういうセンスは、やっぱ、イギリス?
M : イギリス。2010年制作。だからモンティー・パイソンのノリなんだよ。
(ジャガイモの細切り和え物が運ばれてくる。素早く、口に運び)
M : 旨!
M’: 旨!!
M : なんか、中国にいるみたいだな。
M’: 前一緒に行った太原の店に似てますね。ここんとこ、馴染みの店や映画館が急速に再開発で消えてってるんですよ。大好きだった〈新橋文化〉(最後に見たのはチャールズ・ロートン監督、ロバート・ミッチャム主演『狩人の夜』だった)もクローズした。このクラシャンで浅草の映画街最後の日に行ったじゃないですか。あれは、もう、そういう世になるってことの予兆だったんですね。
M : あー、あのオカマのトイレね。
M’: 〈はるみ〉の隣にママの弟がやってた〈シーパラダイス〉もなくなった。あのネオンがなくなって、もうひどく殺風景。
M : 〈はるみ〉の隣は見事になくなっちゃったんだ?
M’: いま、更地。オリンピックが決まって、ホントに何の計画性もない再開発がはじまって、地価も高騰し、もう個人で店を出すなんて無理になってきた。
M : 香港がいま、そうなってる。メインランドから資本が流入してきて、不動産が高騰し、前は下町の食堂みたいのが住人たちの近所にあったのに、いまはもうそんな店、やってけない。どんどん消えていってる。それもあって、あの大規模なデモがあったんだよ。
店内を見ると、超満員だ。
しかも、客は若く、ある席では若い女性が10万Vの電流を稲光かせるような哄笑をあげている。
異様な活気が店内に炸裂している。これも蒲田の土地柄か。
M’: ハンター・デイヴィスの『ビートルズ』は、出たときに、読んだ?
M : 読んだ。
M’: インパクト、あった?
M : あった。だって、冒険物語みたいなとこがあるだろ。
M’: そうそう。キースの『ライフ』とか、ディランの自伝は最近書いてるから、どこか完結してるけど、『ビートルズ』は。
M : わかんないんだよ、先、どうなるか?
M’: その先、どうなったかは、ぼくらは知っててね。あの本は、取材の仕方がおもしろかった。新しいジャーナリズムとか文学に感じた?
M : いわゆるロックのフィルターを通した新しい文学だった。
M’: それまでのジャズの本とか、伝記とかとぜんぜんちがって、わかりやすいし、すごく人間臭い。
M : あれが基本になったね。
M’: ハンター・デイヴィスがどんな人か知らないけど、イギリス独特の味わいが、文章にありますね。アメリカのジャーナリズムとはちがう。
M : ハンター・デイヴィスはすごくいい。
M’: あれは増補完全版っていうのがあって、それには2009年にハンター・デイヴィスが書いた百ページ近い序文がついていて、これも面白かったな。
(豚耳が運ばれてくる)
M : やばい! コレ、いままで食った豚耳で一番旨いかもしれない。
M’: いやー、本当に旨い! いままで食べてた豚耳は何だったのかっていうくらい旨い!
M : こういう前菜が旨くて、点心が旨いと、麺、食わないよね。
(つづいて、海鼠の焼きギョウザが)
M : 旨!
M’: コレ、とんでもない!
M : こりゃ、旨いわ!
M’: 海鼠のギョウザなんて、知ってた?
M : 前、大連に行ったとき海辺の店で平目とか海鼠のギョウザ、食べたけど、まさか日本で食べられるとは思ってなかった。
M’: こういう光景を見ていると、店舗空間で、何がカッコいいなんていう文化なんか浅はかにおもえてきますね。これで、いんでしようね。
M : 前は、こういうものつくろうと日本人は努力してたんだよ。でも、本場の人たちがきて、軽々つくってしまう。そしたら、もう、空間のデザインなんて不要だよ。
M’: 前は小洒落たチャイニーズなんてけっこうあったけど、もう、そんなのバカバカしいね、料金高いだけで。ここ、一皿、500円だもんね。
M : 行かない、行かない。
M’: でもさ、たとえば、〈トンキン〉で食べた麻婆豆腐とか純レバー炒めとか、ぼくは一生忘れないね。旨いものの記憶って一番だね。文学とか映画とか音楽とか、いろいろあるなかで、料理の記憶は格別だね。
M : 食べ物はコピーできないから、そこに行って食べるしかない。
M’: ということは、たとえば、戦前に美味しいものを谷崎潤一郎みたいに食べていたとして、戦争になって、もうまずいものしか食えない。で、終戦しても、ろくに食い物がない。それって一番哀しい話しですね。戦後、食べたものだけを日記につけていた喜劇役者、いましたよね?
M : 古川緑波だろ。
M’: ミックがこのあいだ言ってた阿川弘之の本も、食べ物の話し?
M : そう、『食味風々 録』、2001年に出版された食べ物についての名著だね。サンドウィッチの話しとか。でもさ、此処、これだけの客いるのに、店員、ふたりしかいないよ。日本の普通の店だったら、4人はいるよ。
M’: 注文もとり、酒もつくり、料理も運び、すごい手際いい。動きに無駄ないね。ブラックエンペラーも、その後輩がメールで送ってきたんですけど。(以下、メール)
〈<無事にキャノンボールフェスティバル終わりました。圧巻でした。チケット3000枚ソールドアウト。車、バイク1000台以上集まりました。イベン ターなんか一切使わずの素晴らしいフェスでした。日本の車、バイク、不良ヤンキー文化、組織力って、凄まじいですね。まず、挨拶がしっかりしていて、 仕事が早い。ダラダラしない。終わったらすぐ、解散。この独特の不良の統率力は、一生懸命勉強して大学に行って、就職してみたいなものでは、絶対生まれな いと思いました。日本の経済を支えてきたのは、間違いなくこういう人たちなんじゃないかと思います〉
M’: しかし、この店の人たちはプロですね。
M : ただただ、働いてるよね。
M’: 労働夫人っていう感じ。カッコいいですね。
M : あの制服もいいね。
M’: 赤色。あの人なんて、エキゾチックな顔立ちしてる。瞳が青いみたい。大連の女性なんでしょうね。
M : 白系ロシアの血がはいってるね。凄いわ、此処。羽付きギョウザ、食べようか?
M’: すいませーん!
(注文する)
服務員 ハイ、ハネツキギョウザ、イチニンマエデスカ。
M : ひとつ。
M’: ここのオーナーは大陸人か日本人かわからないけど、商売に意欲的ですね。ひと財産つくろうみたいなスピリット感じる。でも、前に、いま映画から風景が消えたって話、したけど、店からもこんな生き生きした光景が消えてってんですよ。グローバル化で、どこでも同じになってきた。
M : だから内装がどうのなんて言ってるうちはダメだよ。
M’: でも、まだ、東京はそのレベルだよね。雑誌とか。遅れてんのかな。ここは、客が飲食でぶっ飛んでるね。
M : 料理がプリミティブだよ。さっき、マッケンも言ってたけど、プリミティブなものが一番カッコいいのに、そうじゃない方に一回行き過ぎちゃったから、それが一番問題な気がする。
M’: 『ジャージー・ボーイズ』も平日に映画館に見に行ったら、客、入ってたから、本当はみんな求めてると思うな。
(ここで、CDをMに手渡す)
M’: これ、ブラサキの最新アルバムなんです。ジュウェル・ブラウンとの共演で、ジュウェル・ブラウンはサッチモ楽団のシンガーだった黒人女性です。
M : ヘエー!
M’: 日本に凄いジャズ・バンドがいるってアメリカで噂になっていて、それがブラサキなんですけど、ジュウェル・ブラウンの方から共演したいって話がきて。コレ、アメリカでも発売するみたいです。ジャケットは早乙女君のイラストレーションです。素晴らしいです。笠置シヅ子の『買い物ブギ』も日本語でカバーしてて。前は、いろんなもの見て、聞いて、読んで、それでこの月一のクラシャンでネタになるのがいくらでもあったけど、いまは何にも記憶に残ってない。
M : だから、いまはそんなに凄いものがないんだよ。みんな薄い!
M’: あれは、どうでした? ウォーレン・ウォーツの『コック・ファイター』、幻の映画とかいって、公開された。ロジャー・コーマンが『断絶』の監督起用して制作した。
M : 見た、見た。面白いけど、まー、どうかな。ま、全体に薄い映画が多いから、ああいうの面白いっていう人はいるけど、あの程度ですよ。それより、前にマッケンがいいって言ってたル・クレジオの『隔離の島』、読んだけど、やっぱりあれくらいじゃないとぐっとこないね。でも、あれも最近濃いもの読んでなかったから、最初の30ページくらいは入ってくるの大変なんだよ。
M’: そう、考えると、食べ物は即ぐっとくるもんね。やっぱ、店は歩いて探さないとダメですね。だけど、ぼくらいままでホントにいろんなところ行ってきたからな。直感で店見つけて、ほとんど外れないもんね。
M : 昨日、早乙女(道春)が言ってたけど、ぼくらとはじめて北海道に行ったとき、すごいショックだったらしい。
M’: どんな辺境に行っても、必ず、ミックは旨いもの見つけたしね。
M : 対馬とか、すごかったな・・・
ぼくらの対話は、夜更けてさらに劇的に高揚していく店内の狂騒にいつしか呑み込まれていく。キャノンボール・フェスも「圧巻」なら、この〈金春〉の狂騒も「圧巻」だ!
そこには「野卑なエネルギー」(M)、「原始時代の絵かき」(ジョン)に通じるまさにプリミティブ・ワールドの健在を感じる。ぼくらは、その点に関しては、いまでもとても貪欲かもしれない。歩いて見つけ出し、足を運ぶ。
〈金春〉を出ると、そこは車の走らない街路。異郷感たっぷり。風来坊気分になる。
久しぶりに十字路らしい十字路を見る。
小洒落たブック・カフェなどにおよそ縁なき我々は、もう、そこの猥褻な中古ビデオ屋街の空気に陶酔している。
ここに流れてきてるVHS、DVDは、およそ10万本。ほとんどがエロものだ。
営業はミッドナイトまで。名画が埋れている。
『ドラッグストア・カウボーイ』(VHS)が50円だった。
そこで、Mは『ハンガー』を、ぼくはマルクス兄弟の『オペラの夜』を掘り出し購入。各々、DVD版、200円。
商店街から横道に入ると、そこはもう暗闇だ。
行く手に夜風に揺れる赤い灯が浮かぶ。
電車で都心に向かった。
三田で別れるとき、今夜の充実を祝すかのように握手した。
帰宅し、1935年制作の『オペラの夜』を見た。監督はサム・ウッド。
タイトル・バックのデザインはパンクそのものだった。
内容のドタバタは、『ヤァ!ヤァ!ヤァ!』を想わせた。
確か、ジョン・レノンはマルクス兄弟の映画のファンだと何かのインタビューで発言していた。
グルーチョ・マルクスはジョンに似ていた。
弟ふたりがミラノからニューヨークに向かう旅客船のボールルームで披露する即興のピアノ演奏とハープ演奏は天才の域に達していた。
ギャグも乾いてて冴えている。
マルクス兄弟、バンザーイ!
あの海鼠のギョウザに、このマルクス兄弟!
蒲田、おそるべし。
そういえば、蒲田は映画の街だったんだ。
小林ヒロアキさんよりの投稿です。
【ぜひ蒲田には機会あらばワタシも足を運んでみたいものです~。あ、絶品料理をお食事されていた金春って中華料理店の、~労働婦人てカンジがカッコイいですね。エキゾチックな顔立ち、瞳が青いみたい~と評されてらした女性の写真にワタシもビビッて共感いたしましてワタシ描きました、女性のイメージ画作品を写真メールいたしますー(笑)。大傑作、蒲田くらしゃん読ませていただき、ありがとうございます。】