S (早乙女)仕事人の集まりっていうか。殺し屋稼業みたいな。
M (森永)それがまた〈RED SHOES〉みたいな地下の怪しい空間にピッタリなんだな。
S 暗がりにピッタリですよね。仕事でジャズ・クラブにミュージシャン描きに行くことあるんですけど、もう全然面白くない。第一、自分の描く場所、限定されちゃいますからね。自在に動いて描けないんですよ。
M それはつまんないね。ブラサキは音楽形態としては、ビーバップ?
S カテゴリーでいえば、そうですね。
M 正統的?
S 黒人のビー・バップ。真っ黒ですね。デューク・エリントンとかデイジー・ガレスビーとか。チャーリー・パーカー。だからそれこそ久保田二郎さんがイメージしていたジャズって、ブラサキだと思うな。
M そうだな。ピカレスク・アイって感じするな。
S あの物語のオープニングにピッタリですよね、『ドクロ・ギャル』が。
M ぼくはホント、ブラサキのライブ聴くたびにすごく感じるんだけど、都会の鼓動って感じするの。それも今じゃなくて、摩天楼っていってた時代の。都会で生きてくって大変じゃない。生活は不安定だし。いろんな意味でハードだし。裏切りもあったり、だましにあったり、あてがはずれたり、すぐもめたり。そういうルツボの中から生まれてきた感じするね。上海みたいな大都会ね。しかも、その音に妥協がない。それに鼓舞される。生きてく力をもらうんだよ。
S 彼らは音楽の話しかしてないんです。
M どういう話?
S ジャズ聴いて、ここサイコーだろ、とかね。な、ここいいだろっとか。
M 相当ジャズやってても、彼らにとってはまだまだ未知なる音とかがあるってことかな?それを発見して興奮してる?
S それは絵も同じですけど。この間、柳生弦一郎さんの絵、久々に見て、やっぱ並外れてると思ってふるえあがった。
M ふるえあがるものなんて、そうはないもんね。ブラサキはそうだけど。
S いいなーっていうのはあるけど、戦慄はない。柳生さんの絵は、グッとくるんですよね。こえっていうか。何か、やばいものを描いちゃってるって感じさせる!あとプロの絵描きじゃない人に、そういう人、多いです。
M 例えば、誰?
S 黒澤明の絵コンテとか。何で、イラストレーションの世界にああいう人がいなくなっちゃったのかって思いますね。黒澤明の絵の方が全然いいんだもん。あと池波正太郎の絵も柳生弦一郎レベルなんですよ。それは技術とかお手際じゃなくて、何か描いちゃってるんですよ。何か見えちゃってるんですよ。
M それはさ、先入観捨てなきゃダメってことだよね。
S だめだと思う。そう、俺は思う。その何かっていうのは自分にしかわかんないものだし。教科書にも書かれていない。
M 早乙女君はライブ・ドローイングやって、何が一番変わった?
S モノがどんどん昔よりかは、見えるようになった。
M それをやってることによって、職業や仕事以前に表現者としての眼をきたえてるのかな。ピカソ、デッサン一万枚みたいな。
ここで「思いだしたんで、コレ持ってきました」と言って、早乙女君がバックから雑誌を取りだし、パッと開いた頁を見ると、黒澤明監督『酔いどれ天使』の三船敏郎の写真が掲載されていた。
S この感じですよね、ブラサキ。
M ヒリヒリする感じね。人がヒートアップしてるんだよ。それがアナーキーなんだよ。人間が生っぽいね、この時代は。何ていうのかな、人と人が出会うと、火花が散るぐらい。早乙女君が絵描きだったから、ブラサキとの出会いが特別なものになったわけでさ。絵描いてなかったら、ただのファンで終わってたよ。
S 全然ちがうでしょうね。
M だって、彼らも早乙女君の絵に感じてるわけじゃない。
S こんなことやってる奴、異常だなっていってるってことは、彼らも俺に何か感じてるんでしょうね。
M どこか異端児同士の共鳴っていうか。
S 元気でてきたなっていう感じしましたね。
M やっぱ、自分を生かすものなんだな。
S やっぱり、バンドでもひとりふたりはスーツが好きって奴はいても、全員好きっていうのは珍しい。あんなにみんなビシッとスーツ揃ってるのってありえない。すごいと思うな。
M 似合うしね。ファッション雑誌に見るファッション写真より全然カッコいい。
S やっぱり、ファッション写真がダメなんですよ。モデルがポーズつくって。きめたポーズでこっち見てるのってカッコ悪いんだよ。いつの間にか撮ってたらカッコいいのに。
M ところで、ビー・バップとの出会いは?
S ぼくはもともとは日曜洋画劇場で見たハリウッド映画ですね。『ベニー・グッドマン物語』とか『グレン・ミラー物語』とか。
M いつごろ?
S 中学生のとき見て好きになった。『ベニー・グッドマン物語』を見たら、みんなスーツ着ていて、大人ってカッチョイイなーって、憧れたんです。
M 早乙女君はどんな格好してたの?
S 基本アイビーですね。リーバイスにコンバースはいて。高校生のときはアイビー一色だったけど、アンソニー・パーキンスの格好をしたり。あと『理由なき反抗』見て。あの映画って、高校生の話じゃないですか。ジェームス・ディーンが引っ越してきて、その高校の連中が超アイビーで、やべえって感じでしたね。あとあの映画で、ジェームス・ディーンが車乗ってるとき、ラジオでR&Bを聴いてるんです。黒人音楽チャンネルで。あの当時、白人の若者がR&Bを聴くって不良ですよ。それ映画の中でやったエリア・カザンってすごい監督です。
M あー、そう。そんなところまで見てたんだ。相当マニアックだね。じゃ、高校生のころ、音楽は主に何聴いてたわけ?
S そのころはエディ・コクランとかチェビー・チェッカーとか、ファッツ・ドミノとかです。ファイヤー通りにあった輸入盤屋によく買いに行ってました。あと高校3年のときに彼女と『コットンクラブ』見に行って、これはえらいもの見てしまったなぁと。
M それが最初か?
S デューク・エリントンの音楽もスーツも、何だ、コリャっていう。そのあとカウント・ベイシー楽団も知ってLP買ってきて聴いたら、レスター・ヤングも入ってて、もう真っ黒の黒人音楽。ベニー・グッドマンやグレン・ミラーともう全然ちがう。それがショックで。
M そうやって自分でジャズを発見していったのね?
S 本を読んでたわけでもないし。世の中、ジャズがブームだったわけでもないし。
M 植草甚一を読んでない?
S 読んでない。感覚だけです。
M 長い旅だね。
S そういわれてみると、長い旅ですね。いまでもつづいてるんだろうけど。
M ジャズ・マガジンも読んでない?
S 読んでない。ただレコード・ジャケットの片隅にのってるちっちゃな写真を見て想像してた。なんだコレッ!カッコいいな、みたいな。
M もうそのとき描いてたの?
S 多分、カセットテープのラベルとかに描いてた。
M で、カウント・ベイシーがよかったわけね?
S カウント・ベイシー楽団の中のレスター・ヤングっていう人がカッコよくて、それからレスター・ヤングのレコード買うようになって。
M それがいくつ?
S 20歳ごろ。
DISC1が
1.レッツ・ダンス/ベニー・グッドマン
2.サムシン・エルス/キャノンボール・アダレイ&マイルス・デイヴィス
3.モックス・ニックス/アート・ファーマー
4.ビギン・ザ・ビギン/アート・ペッパー
5.サムシングス・カミング/クリス・コナー
6.スプリット・キック/アート・ブレイキー
7.ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム/ソニー・コリンズ
8.ラブ・イズ・ジャスト・アラウンド・ザ・コーナー/フォー・フレッシュメン&トロンボーンズ
9.ロッカス/リー・モーガン
10. ライムハウス・ブルース/ジョー・パス
11. ザ・ベスト・シングス・イン・ライフ・ア・フリー/ハンク・モブレー
12. エア・メイル・スペシャル/ベニー・グッドマン
DISC2が
1.ウン・ボコ・ローコ/バド・パウエル
2.リユニオン/ジェリー・マリガンwithチェット・ベイカー
3.アイ・ワズ・ドゥーイング・オールライト/デクスター・ゴードン
4.アス/ケニー・ドーハム&ジャッキー・マクリーン
5.ソング・フォー・マイ・ファーザー/ホレス・シルヴァー
6.レッツ・ゲット・ロスト/チェット・ベイカー
7.タンジェリン/ジム・ホール
8.テイク・ユア・ビッグ/ハンク・モブレー
9.アイ・フィール・プリティ/アニー・ロス&ジェリー・マリガン
10. レディー・ビー・グッド/ケニー・バレルwithアート・ブレイキー
11. リル・ダーリン/カウント・ベイシー