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不思議な旅だったなぁ。
北京から吉林省へのジェット機中で、眼下に荒涼とした地をのぞみながら、かつて訪ねた寧夏回族自治区のことを思い出していた。
その大地に眠る恐竜の化石にも想いを駆せていた。
北京で再会した黄さんは、もう何年もかかって寧夏の回族(イスラム系少数民族)を撮っていると言っていた。
寧夏で手に入れた恐竜の化石を見せてくれた。
最初にインスピレーションで感受したイメージが現物となって目の前に現れた。
まさにTRIP REALIZATION!
人は想像力をもって旅をしなければ、単なる肉体の移動に終わってしまう。
求めるわけでなく、老子、荘子のいうような“自然”の力のはたらきにより、実は望み通りの旅ができる。
那さんがプレゼントしてくれた『PIXEL』に見る写真も驚異だった。すでに国際的女流フォトグラファーとなったチェン・マンの作品も紹介されている。
『PIXEL』に見る写真には中国人写真家の世界観が如実に反映されている。
社会をどう見ているのか? 写真家たちはその作品で物語っている。
土産は大判の写真集2冊だけだった。
東京に戻った日、全マスコミのトップニュースは中国での「反日運動、全土拡大に!」と、かつての大本営発表並の騒ぎだった。世論、風潮は一気に反中ムードに染まった。
2010年代にもなって、両国の政府はひどく時代おくれの、子供でもそのナンセンスさがわかる愚行にはしっている。メディアも、しかり。
自分はその直前、中国を旅していて事情は少しは目撃している。
ヤラセの反日デモを見ていたから、大騒動に発展しても、その仕掛けは見えていた。
自分は自分なりに世界観を持っているが、デモの類は嫌いだ。
中国は社会主義国家で、職業の選択、不動産の所有、海外旅行、表現らの自由もなく、ガチガチの制度に縛られている。なのに、ひとりひとり会うと、ものすごく個性的なのだ。
逆に日本は資本主義国家で何もかも自由が保証されているはずなのに、みんな同じに思える。
田名網敬一がかつて日本人とフランスの子供を相手に絵画教室を開いたところ、自由課題なのに日本人の子供は誰かひとりが、たとえばイルカを描くと、みんな真似してイルカを描く。
ところがフランス人は他人と同じ絵を描く子供はひとりもいなかった。みんな人とちがう絵を描いたという。その現実を知って日本の教育者達はショックを受けた。
今回の旅で出会った中国人全員が人懐っこく、ひとりひとりバスガイドまで個がたっていた。
この旅には帰国してから、残響がのこる。
東北被災地から友人の鬼頭君が町に戻ってきたら、なんと、吉林省出身の朝鮮族の女性と一緒だった。だから、この旅は終わらず、芝浦の日常でつづいて行くのを感じた。
反日、反中なんて、ちいさな波紋に過ぎない。
鬼頭家では毎日、反日・反中騒動が勃発している。
が、それ以上に仲もいい。
重重帝網なるを即身と名づく。(弘法大師)
が、今回の旅の感想だ。